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スペースジェット開発中止・4 [├雑談]

今回の開発中止の発表を受け、

すっかり「日本の旅客機製造 \(^o^)/オワタ」ムードになってしまいましたが、

一連の2番目の記事 で書いた通り、何か「凄い目玉」さえあれば、

世界の航空会社に買って貰える可能性は残っています(残ってて欲しい)。

しかもその目玉は、GTFエンジンのようにライバル機が追従するには時間のかかるものなら、

アドバンテージを得て実績作りができて尚良しです。

そんな凄い目玉となり得るものが何かないだろうか。

というのがこの記事の主旨です。


空気抵抗大変

高速道路を時速100kmで走っているとして、

窓を開けただけでもの凄い風圧ですし、手を出したら凄そうです(良い子は以下略)。

余談ですが、以前開催された2輪レースにて、

トップでチェッカーを受けた選手が不用意に腕をガッと突き上げてしまい、

風圧で腕が持って行かれ、肩関節が大変なことになってしまうという事故があったそうです(ノ><)ノヒイィィ

この時の選手がどの程度のスピードで突き上げたのか不明ですが、

国内2輪レースでも最高速度は普通に300km/hとか出ます。

仮にこの時の速度が200km/hだったとすると、100km/hで感じる風圧の何倍になるでしょう?

「空気抵抗は速度の2乗に比例する」という法則があり、

100km/hに対して200km/hですから、速度差は2倍で、2倍の2乗ですから、

2²=4 で、4倍ということになります。

100km/hでも凄い風圧ですから、その4倍ともなれば、そりゃあ持ってかれちゃっても無理はないです。


「空気抵抗は速度の2乗に比例する」は、「燃料消費量は速度の2乗に比例する」と言い換えることができます。

例えば速度を2倍にしたいなら先程と同じく、

2²=4

で、燃料は4倍必要。

となります。

空気抵抗が4倍になると聞いても、「ふーん、そうなんだぁ(棒)」としか思わないとしても、

特に自分でガス代を払っている方からすると、「燃料が4倍」と聞くと、

「燃料4倍も使うのにたった2倍しか速くならないの? ウソでしょ??」

と思いませんか?

「2乗倍で増えていく」

これは中学で習った二次関数(y=ax²) ですね。

グラフだと、直線じゃなくてあの進むに従って急激に増加する曲線のヤツです。

と、このように速度が上がるに従い空気抵抗は2乗倍で増え、ガス代が急上昇します。

ですので、飛行機が受ける空気抵抗(燃料消費量)は、それはそれは凄いことになります。

仮に913km/h(ジャンボの巡航速度)で飛んでいるとすると、

100km/hの時に感じる風圧の83倍(9.13²)ということになります。

こんなもの凄い抵抗をかき分けて進むのですから、それに伴って燃料消費量も大変なことになります。

ジャンボが巡航時に出している推力は15~26t程度なのだそうです(燃料量等で大きく変わる)。

この時の燃料消費量は、1時間当たりおおよそですが、7.5t~13tにもなります(燃料消費率0.5kg/kg/hで計算)。

巡航時は、抗力と推力がピッタリ釣り合った状態(抗力=推力) なので、

巡航時のジャンボには抗力(空気抵抗)が15~26t程度かかっており、

これをかき分けて進むために、1時間当たり7.5t~13tの燃料を消費していることになります。

ヒコーキが如何に燃料喰いかについて、分かり易いところでは、

「ジャンボは1分間でドラム缶1本分の燃料を消費する」という説明がしばしば用いられますね。

こんなに大量の燃料をドカドカ使うのですから、

このご時世ヒコーキが「燃費極悪の乗り物」としてやり玉に挙がってしまうのもムリないです。


ゆっくり飛ぶのはどうでしょう?

先程、「燃料消費量は2乗倍で曲線的に増えてゆく」と書きました。

「燃料をもの凄く増やしても、そんなに速くならない」

ということは、逆もまた真なりで、

「燃料をもの凄く減らしても、そんなに遅くならない」

ということになります。

これは環境問題の観点で言えば、

「速度を少し減らすだけで、燃料消費(二酸化炭素の排出)をもの凄く減らせる」

ということです。


このシリーズ記事の2 でエンブラエルE-JetシリーズとMRJの巡航速度比較について書きました 

今やリージョナルジェット界の王者となった感のあるエンブラエルですが、

現在世界中で飛びまくっているエンブラエルE-Jetシリーズの巡航速度はマッハ 0.82(870 km/h)。

現在運航中のリージョナルジェットのもう一方の雄であるボンバルディアのCRJシリーズも、

最大巡航速度は(型式により多少差があるのですが)エンブラエル機とほぼ同じ。

対してMRJはマッハ0.78なのでちょっと遅く、巷ではこれが"致命的な弱点"として散々揶揄されました。

マッハ 0.82のエンブラエル、ボンバルディア機に対し、MRJはマッハ0.78なので、

その速度差は0.9512倍となります。

2乗の法則でいくと、0.9512²=0.905 となりますので、燃料消費量≒0.905倍ということです。

MRJだって、本当はライバル機と同等の巡航速度に設定しようと思えばできたはず。

そこを少し低く設定することにより、巡航時の燃費消費は10%向上した計算になります。

元々MRJは、「環境適応型高性能小型航空機研究開発」という計画から始まっており、

設計検討段階から従来機に対して「燃費20%向上」を目標としていました 

そして「2割減を実現できれば、競合には簡単に真似できない」とも。

20%の内訳は、GTFエンジンの採用(10%)、機体、空力設計(10%)としていました。

(当時の資料を見返しても、「速度を落とすことで燃費改善しよう」とする意図は見つけられませんでしたけど)

では、たった5%ではなく、もっと大胆に巡航速度を低くすると、具体的にどのくらい燃料減らせるでしょうか。

減速率 燃料
1.0 1.00
0.9 0.81
0.8 0.64
0.7 0.49
0.6 0.36
0.5 0.25


速度を半減まで0.1刻みで出してみましたが、

一例として、速度を0.7倍にすると、0.7²=0.49なので、

速度を3割減らすと、消費燃料はナント半分で済みます。

但しこのデータの見方には注意が必要で、これは飽くまで「巡航時の」燃料消費の話です。

離陸開始から巡航高度、巡航速度に達するまでは、巡航速度の速いライバル機同様燃料を大量に消費します。

ですのでこの表の数字は、

「速度を3割減らすと搭載燃料が半分で済む」とか、

「速度を3割減らすとジェットエンジンも推力半分の小型で済む」とか、

そういうことではありません。

じゃあ、1回のフライト全体で見た時、巡航速度を下げることで得られる効果って、どの程度なんでしょうか?

これは、飛行距離によって巡航する割合が様々なので一概には言えないのですが、

航空新聞社2022.02.04「離陸時が最も多くの燃料を消費する」は迷信?

と題する記事がありました 

有料記事(100円。興味のある方は直接記事をご覧ください)なので、

拙記事の主旨に沿った部分だけご紹介させて頂きます。




記事では、2022年1月28日、ロンドン・ヒースロー空港を離陸し、

各目的地に向かう10便(距離も機材も様々)について、

離陸、上昇、巡航等の各フェーズで消費した燃料の割合を出してました。

特に「巡行時」に消費した燃料の割合について、結果は以下の通りでした。


行 先 使用機材 距 離 時 間 巡航時に消費した燃料の割合
シャルル・ド・ゴール空港 A319 348km 1時間20分 62%
エディンバラ空港 記載無し  534km 記載無し 68%
ドバイ国際空港 記載無し 5,500km 記載無し 95%
香港国際空港 A350 9,642km 12時間 96%

なんかオイラ、「巡航高度に達したところで搭載燃料の半分を消費」

とか聞いたことあるような気がするんですけど、

たった348km(羽田から直線距離で琵琶湖の辺り)の短距離路線でも、

巡航時の使用燃料は全体の62%に達するんですね。

前述の通り、巡航速度を3割落とすと、巡航時の使用燃料は半分になるのでした。

巡航時の使用燃料が全体の62%を占めるということは、それ以外(離陸、上昇、降下等)は38%。

で、巡航速度を3割落とすと、巡航時に使用される燃料(62%)が半分になりますので、

62÷2+38=69 で、

巡航速度を3割落とすと、1フライト全体の使用燃料は3割減となる計算に。

これなら短距離路線でも巡航速度を落とす価値はあるんじゃないでしょうか。


表の下2つの項目はドバイ行きと香港行きですが、

5,500kmで既に巡航時の割合が95%に達するんですね。

こんなに巡航時に消費する燃料の割合が大きくなると、

例えばドバイ行きの場合、95÷2+5=52.5 で、

速度を三割落とすと、トータルで見ても使用燃料は限りなく半分に近くなります。


上の方で、

「ジャンボが巡航時に出している推力は15~26t程度なのだそうです(燃料量等で大きく変わる)。」

「1時間当たり7.5t~13tの燃料を消費」

と書きました。

こんなに必要推力に幅があるのは、特に超長距離線の場合、自重とほぼ同じ重さの燃料を搭載しており、

燃料を消費するにつれて、どんどん軽くなるからです。

どの位燃料が残っているかでこれだけ必要推力に差が出ますから、

「巡航速度を3割落とすから、搭載燃料は半分強で済む」のであれば、

その機体はかなり軽くなりますから、離陸、上昇、加速に使う燃料が少なくて済みますし、

巡航に達してからの必要推力もかなり少なくなるはず。

実際の燃料消費量は、2乗倍で計算したのよりかなり少なくなるはずです。


ということで、巡航速度を落とすとかなり燃料節約になる訳ですが、

速度落とすとその分増えてしまうのが時間です。

では、速度を遅くすると、所要時間はどの程度延びるでしょうか。

仮に、エンブラエル機が巡航速度(870 km/h)で500kmの距離を飛行したとすると、所要時間は34分。

上の刻みで巡航速度を低くすると、速度、所要時間はそれぞれ以下の通りとなります。


減速率 速度 所要時間 増加
1.0 870km/h 34分 +0分
0.9 783km/h 38分 +4分
0.8 696km/h 43分 +9分
0.7 609km/h 49分 +15分
0.6 522km/h 57分 +23分
0.5 435km/h 1時間9分 +35分

この表は、仮に巡航速度で500km飛行する路線があったとして、

例えばエンブラエル機の0.7倍の速度に落すと、15分余計にかかりますよ。

ということです。


また、長距離路線についてなのですが、以前読んだ元パイロットの本の中で、

「飛行時間が11時間とすると、そのうち10時間が巡航である。」

とありました。

この場合、巡航速度を0.7倍に落とすと、全体の飛行時間は3時間増えて11時間→14時間になります。

その代わり、上の航空新聞社記事にある通り、消費燃料はほぼ半分になります。

短距離路線なら速度を3割落としても、せいぜい数十分程度でそこまで飛行時間は増えないですが、

長距離路線だと、時間の延びが1時間単位で増えていくのがやっぱりキツイですね。

成田~ニューヨーク便だと、往路12時間45分、復路14時間30分(Google調べ)。

仮に巡航速度を半減させると、飛行時間はほぼ倍になります。

復路だと、28時間という計算に!!(XДX)

オイラなら個室が欲しくなります。


巡航速度は簡単に落とせない

「巡航速度落せば燃費が良くなるんなら、試しにサッサと落してみればいいじゃん」

と思うかもしれませんが、飛行機の場合は簡単に落とせない事情があります。

飛行機は翼で揚力を発生させて飛んでいる訳ですが、

揚力の大きさは、速度と主翼の迎え角により変化します。

そのため、状況に応じて主翼の迎え角(機首上げ角)を調整します。

但し、機首上げ角が僅かでも増えると、抗力がグンと増えてしまいます。

そのため、旅客機設計の際には先ず巡航速度をどの程度にするか決め、

巡航速度付近で飛んでいる時に、最も燃費効率がいい感じな姿勢になるようにしています。

そのおかげで巡航時、おおよそ1.5~3°程度の範囲内で機首上げすれば済むようになっています。

先程、2乗の法則を持ち出して、「速度を3割落とすと燃料半分で済む」と書きました。

では巡航時、メーカーの定めた巡航速度よりも速度を3割落とすとどうなるでしょう?

速度が落ちた分揚力が減少しますから、それを補うため、機首上げ角を増やしてやる必要があります。

そうすると抗力がグンと増えてしまい、エンジン出力を余計に増やさないといけなくなりますから、

「燃料半分」どころか、燃費は却って悪化します。

短距離路線を飛ぶ時は巡航速度を3割落として、長距離路線飛ぶ時は標準の巡航速度で行こう。

なんて器用なマネは出来ません。

車やバイクとは違うんですね。

そんな訳で、巡航速度を3割落として燃料半分の飛行をしようと思ったら、

最初から巡航速度を3割落とした設計の飛行機を造る必要があります。


巡航速度を落とせない大人の事情

ここまでは物理的な観点で「巡航速度落とすとこんなに燃料節約できますよ」と書きましたが、

実は巡航速度を落として燃料を節約する方法は、航空会社にとって必ずしもプラスぱかりとは限りません。

現在は巡航速度の僅かな増減により消費燃料量がどう変化するのか、簡単にわかるようになっています。

理想的な巡航速度で飛べば、当然燃料費を低く抑えられるのですが、

飛行時間が延びれば、人件費、機材費、整備費、保険料等のコストが増えます。

前述の通り、飛行機の設計に当たって先ずは巡航速度を設定し、それに従って機体をデザインするのですが、

メーカーの設定した巡航速度は飽くまでおおよその目安であり、

その時の気象環境、重量等により、理想的な巡航速度は刻々変化します。

詳しい説明は省きますが、「理想的な巡航速度」を1%程度外しても、燃費はそう大きくは変化しません。

そのため、燃料費が多少増えてしまうのを承知の上で、敢えて速度を僅かに上げ、

トータルの運航コストを抑える等、

全体の兼ね合いを見ながら速度を決めるのだそうです。

いろいろ考えてるんですね(詳しくは【コスト・インデックス】【経済巡航】でググってみてください)。


また、他社と競合する路線の場合、

飛行時間の長い短いが集客に大きく影響するかもしれません。

巡航速度をどの程度に設定するのかについてパイロットの手記でよく目にするのは、

「競合路線を飛ぶ他社より遅くては意味がない。そこで速度をちょいと上げ~」

的な言葉です。

「A社よりB社のが速いから」とお客が競合他社に流れたら元も子もないですからね。


現在は様々な条件から、こんなに繊細な速度の増減をしているのですが、

この記事でオイラが考えているのは、数十%一気に落とす話です。

分かり易いところでは例えば、巡航速度をガクッと落したとすると、

飛行機の回転が悪くなってしまい(これまで1日に3往復できていたのが2往復に減るとか)、

1日で運べる乗客、貨物がガクッと減ってしまいます。

これまでのペイロード量を維持するには、旅客機を増やして対応しなければならず、

そうなると整備費用が増えますし、ヒコーキを飛ばすパイロットやCAさんだって増やす必要があります。


また、速度を落とすことによる燃料代の節約効果が、航空会社にとっては微妙というのもあります。

前述の通り、巡航速度を3割落とすと消費燃料は少なくとも3割~5割程度減らせるはず。

運行費に占める燃料費は、オイラが調べた範囲では、20%台~30%台でした。

現在の世界情勢からすると、燃料費の割合は以前より相当高くなっているはずですが、

ここでは仮に35%とします。

で、この35%の燃料費が3割~5割程度減ったとすると、

運航費全体では、10%~17%の減少となります。

「速いは正義」が大勢の現状では特に長距離路線の場合、

「他社さんと比べて飛行時間が長いですけど、その分お安くしますから~」

という売り方をしないと、お客も集まらないんじゃないでしょうか。

要するに、速度を落として燃料費を節約する方法は、浮いた分の燃料費を航空会社の丸儲けにし難いどころか、

集客にどんな影響があるのかギャンブルです。

それに加えて、先程の人件費、機材費、整備費、保険料等のコストは増えます。


燃料を持続可能なものにしたり、不思議な形の飛行機を造ろうとしたり、

二酸化炭素の排出を減らすため、様々な取り組みはあるものの、

「速度を大幅に落とす」という安易な方法について(意識高い欧州でさえ)、とんとお目にかからないのは、

恐らくこうした諸々の事情があるからなんじゃないでしょうか。


このように、巡航速度をどの程度に設定するか、ひいては機材の選定に至るまで、

「航空会社にとってのトータルコスト」が重要な価値観になっているのですが、

欧州を中心にほんの数年で航空会社を取り巻く価値観は激変しました。

このシリーズの3 で触れましたが、政府が短距離路線の運航を許さず、

ヒコーキならほんの1時間35分~1時間50分程度の移動に、

16~17時間もかかる列車移動を厭わない乗客の急増。

全ては、「飛行機は大量の二酸化炭素を排出する(と環境団体に見なされている)」のが原因です。

「安易な飛行機の利用を許さない」という風潮は、今後も世界中に広まっていくと思います。

「巡航速度を大幅に落としたヒコーキ」は、航空会社にとって金銭的なメリットはあまりないのですが、

二酸化炭素の排出は大幅に減らせます。


移動時間はなるべく短い方が良い。
少しでも早く目的地に着きたい。

というのは、時代を問わず誰にとっても正直な気持ちと思います(一部の特殊な人たちを除く)。

オイラとしましては、超音速旅客機が飛び回る世界を諦めてません。

但しそれは、今後技術が進み、後ろめたさを感じない程度の性能が実現できなければ、もう許されないでしょう。

それが実現するまでの間は、「ゆっくり飛ぶヒコーキ」という選択肢があってもいいのではないかと思います。


(もう続かない)

コメント(4) 
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コメント 4

an-kazu

もの凄い考察と構成・・・
もはやblogの域を超越しているのでは?

by an-kazu (2023-03-28 10:08) 

とり

■an-kazuさん
所詮は素人の妄想垂れ流し記事ですので、
何かとんでもない勘違いなど混ざってないことを願うばかりです(o ̄∇ ̄o)フフ
by とり (2023-03-28 20:04) 

guchi

スペースジェット結果はH3ロケット打上げへと
負の連鎖が続いている気がしてしまいます (T.T)
この後高性能ドローン*空飛ぶクルマの日本敗退
につながらなければ・・良いのですが (;'∀')
by guchi (2023-04-01 09:54) 

とり

■guchiさん
本当にそうですね~
負の連鎖が続かないことを願います
by とり (2023-04-01 16:26) 

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