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A380生産終了・4 航空会社の話 [├雑談]

ハブ&スポークとポイント・トゥ・ポイント

なぜA380を開発するのかについて、当時エアバス社の主張はこんな感じでした。
「今後も航空需要は伸び続け、ハブ&スポーク化により、主要空港、主要航空路は
ますます過密化が進み、このままではパンクしてしまう。
だからこの輸送量をさばけて、しかも環境性能に優れた超大型旅客機が必要」
エアバスのこの主張は公式サイトにもデカデカと載ってました
(A350開発が始まったらさりげなく消したけど)。

一方当時のボーイングですが、航空需要が伸びるという予測はエアバスと同様でした。
しかし民間航空輸送のあり方はエアバスの言う基幹空港間を大型機で結び、
基幹空港から地方空港へのローカル便を伸ばす「ハブ&スポーク型」から、
基幹空港を持たずに地方空港間を直接結ぶ「ポイント・トゥ・ポイント型」に変わると予想していました。
現在のハブ&スポーク型の路線構成では、ハブ空港の発着便の混雑が
ひどくなって旅客需要の増加に対応できなくなる上に、
地方空港から地方空港への旅客は航空機を乗り継がねばなりません。
このことからボーイング社は、将来の民間航空路線の構成は、
個々の空港を需要に合ったサイズの機体で直接結ぶ「ポイント・トゥ・ポイント型」
に変わると予想しました。
そしてそのような輸送需要に合致する機体こそ、
「ソニック・クルーザー」であるとしていました。
ソニック・クルーザーって、なんだかもう懐かしささえ感じるんですが、
これが現在の787開発へと至りました。

ICAOのデータ(下記リンク参照)では、A380がデビューした2007年、
世界の航空旅客数は、22.6億人でした。
そして2017年にはこれが41億人とほぼ倍増しましたΣ(゚Д゚;)
両社の予測通り航空需要は伸び続けており、
しかもICAOは、「2040年までに世界の航空旅客数は約100億人に達する」
と予想しています。

加えて大型機から中型機へ、中型機から小型機へと使用機材のダウンサイジングも進みました。
航空旅客数が増えた上にヒコーキが小型化しましたから、
便数は旅客数以上に増加しました。
エアバスの主張通りなら、もうとっくにパンクしていてもおかしくないはずなんですが、
それでもパンクしないのは、一つには航続性に優れた小/中型機の登場により、
ボーイングの言う、主用空港を経由せず、地方都市間を直接結ぶ運航
(ポイント・トゥ・ポイント)が増えたことが挙げられると思います

現在では広義としての「大空港=ハブ空港」がすっかり浸透しましたが、
本来の「ハブ&スポーク」とは、単に大空港に路線が集中している。というだけでなく、
各地からハブ空港に一斉にヒコーキが到着し、乗客が短時間で乗り換えを済ませた後、
再び一斉にそれぞれの目的地に飛び立つ。
という、ハブ&スポークに特化した空港と、航空会社の運用がセットになったものです。
このためハブ空港周辺の空域、滑走路は、一斉にヒコーキが到着するラッシュ時は
大都市さながらの交通渋滞となり、遅延は慢性化。
また利用客側からすると、大型機が一気に押し寄せるため、
ターミナルは大量の利用客で溢れ返るのが当たり前。
特にアメリカ同時多発テロが発生した2001年、上着も靴も脱がされと、
保安検査は格段に厳しくなり、更に時間を要するようになりました。

ところが、経済性に優れ、長距離飛行も可能な小/中型双発機の登場により、
それほど需要の多くない地方空港同士の長距離路線でも商売が成り立つようになりました。
特に格安航空会社は、燃費と長距離性能を兼ね備えた小/中型機を手にしたため、
ヒコーキと乗客が溢れ返るハブ空港を尻目に、都市部のセカンダリ空港、
もしくは地方都市間を直接結ぶ路線を盛んに運航しました
(小規模空港の方が空港使用料低いので、チケット代安くできる)。
ハブ&スポーク方式ではないので、ある一定時間に極端に
ヒコーキを空港に集中させる必要もなく、機材が大型でないので、
ターミナル内の利用客の極端な増減も(ハブ空港程は)ありません。
すんなり保安検査を抜け、ヒコーキも大型でないので搭乗に時間を要しません。
エプロンから滑走路に向かうヒコーキの渋滞もなく、定時率も優秀といいことずくめ。
アメリカ同時多発テロの後、厳重な警戒も相まって混雑と遅延が更に悪化し、
ハブ空港の大混雑にすっかり嫌気がさしたビジネス客がセカンダリ空港のLCCに流れ、
実際使ってみたら、「お、意外といいじゃん!」となったのだとか。

ハブ&スポークは優れた輸送形態ではあるのですが、
特に地方在住者にとっては、まずは主要都市へ飛び、
それから目的地近くの主要都市へ移動して…と、余計な乗り換えを強いることになります。
乗客にとっては、目的地まで直接行けるポイント・トゥ・ポイントの方が便利に決まってます。

前記事でチラッと大西洋航路のことを書きました。
北米東海岸の各都市とヨーロッパ各国間は、おおよそ5,000km~8,000km。
大西洋を越えるだけで少なくとも6時間はかかります。
それで、米国とヨーロッパにそれぞれハブ空港を設定し、
ハブ空港間を747で結ぶようにすれば、限られた機材で効率的な運航ができます。
ハブ&スポークにうってつけなモデルケースになりそうなんですが、
120分ルールにより双発のB767が大西洋路線に投入し易くなると、
B767が一躍大西洋航路の主役になったのでした。
120分ルールが設けられたのが1985年。
既に747が就航して16年目の時期だったので、
747で一気に大西洋をまたぐハブ&スポークが使えたんですが、
大西洋路線を運航する各航空会社が選択したのは747ではなく、
767の手ごろな座席数で米国各都市とヨーロッパ各国を直接結ぶことにより、
乗客の利便性を高める方でした。
そしてこの時以来ずっと、B767は大西洋路線の主力であり続けたのでした。

双発機の経済性故なのか、利便性を高めないと他社に客をもってかれちゃうからなのか、
どちらの比重が重いのか不明ながら、結果から見れば航空会社は、
1980年代半ばには既に大西洋路線でハブ&スポークよりポイント・トゥ・ポイントを選択していました。
エアバスが747を上回るヒコーキ開発構想を本格化させたのは、1989年のことでした。
「747以上の大型機で、ハブ空港からハブ空港へと一気に…」と開発を進めるそのおひざ元で、
既に各航空会社が未来を予感させる運用を始めていたことになります。

B787以来となる新機種として、ボーイングが開発するかどうか判断の待たれるB797ですが、
元々B797は大西洋路線での使用を意識した機種でした。
ボーイングの構想としては、B757の後継で、B737とB787の中間の座席数の中距離機としています。
このクラスを更に拡充するんですね。
こうした動きを見ても、時代は確実に超大型機から中型、小型機に移っていることを如実に物語っているかと。
こうして、「ハブ空港間の主要路線をA380が担い、そこから先の近距離路線は(エアバスの)小型機で」
という、「A380を中心に世界が回る」構想は実現しませんでした。


A380オペレーター
A380を運用している各航空会社についてなんですが、
最低でもA380を10機は保有していないと効率よく回せず、
そのメリットが十分に活かしきれないのだそうです。
では、各航空会社は、A380を何機保有しているのか、
ググって可能な限り最新の数字を出してみました。

ルフトハンザとエールフランスは保有数を削減してそれぞれ8機、5機体制にする
と発表しています。
先程の言葉の通り10機以上保有しているのが
「A380を主力に据え十分に活用している航空会社」とすると、
該当するのは、エミレーツ123機、シンガポール24機、カンタス12機、
ブリティッシュエア12機、エティハド10機、大韓航空10機、カタール航空10機
の7社になります。

そして今後保有数9機以下になるのが、
ルフトハンザ8機、アシアナ、マレーシア、タイの6機、エールフランス、
中国南方の5機、ANA3機、1機のハイフライマルタで計8社。
ANAの3機というのは、A380を運用する航空会社の中でも、保有数が少ない部類に入るんですが、
「A380を主力に据え十分に活用している航空会社」が7社に対し、
そうではない航空会社は8社ありますから、
必ずしもANAだけが飛びぬけて少ないということもありません。
では、なんでわざわざ燃料費の嵩む大型機を少しだけ保有するかといえば、
やっぱり宣伝のためなんじゃないでしょうか。

大きな空港でさえ、ドコを見渡しても似たような双発機ばかりがうようよ
している昨今、こうも似たようなヒコーキばかりでは、
ドコの会社のヒコーキかなんて、普通は気にも留めません。
そんな中、総二階建ての4発機はひときわ目立ちます。
似たようなヒコーキばかりでドコの会社のヒコーキかなんて気にも留めない人でさえ、
あの威容には思わず(ドコのヒコーキなんだろう)と目を奪われても
不思議ではありません(個人の感想です)。

ルフトハンザとエールフランスのA380保有数削減が実施されると、
製作国(諸国?)である欧州で「A380を主力に据え十分に活用している航空会社」
は、ブリティッシュエアのみということに。
フリートの主役に据え、多数のA380を運用するとコストが嵩んでしまうため、
ルフトハンザとエールフランスのように少数だけ残して、
「あの世界最大の旅客機を運用している会社」
というステータスシンボル的な使い方をする航空会社は今後も増えるのかもしれません。


2019/8/2追記:エールフランスは2022年までにA380を退役させると発表しました。


A380を導入したANA
いよいよ5月24日にANAのA380がホノルル線に投入されます。
オイラみたいに「あああの主翼、大き過ぎるんだあ…」とかブツブツ言ってる病んだ人や、
A380=燃費悪い という捉え方しかしない人より、
ウミガメくんが南国の美しい空を飛ぶイメージが強烈に残る人の方が遥かに多く、
「あの世界最大の旅客機を飛ばしているのは、日本では(JALではなく)ANAだけ」
という絶大なブランドイメージとなるはずです。
胴体の一部だけ。みたいなケチ臭いことをせず、3機とも全面特別塗装なので、
普段ならヒコーキなんて別にわざわざ撮らないのに、
思わず撮って上げてしまう人は相当な人数になるはず。
映えるウミガメくんの姿は、垂直尾翼の誇らしげなロゴと共に拡散しまくるはずです。
三機がそれぞれ異なるハワイのイメージカラーで、
カメさんの表情が違うのもいいですね~(*´∀`*)
これはコンプリートしたくなる人も多いんじゃないでしょうか。
尾部に子ガメも連なってますが、
思わずアップで撮りたくなる可愛いらしい子ガメちゃんのすぐ上にもしっかりANAのロゴが。
この構図、計算じゃないのかしらん。

現在ANAのホノルル便には787を使用しているため、供給過多が盛んに言われてますが、
SNSの写真や口コミ、様々な対抗策を講じるJAL連合の相乗効果もあり、
今年の休みはドコ行こうか。とアレコレ考える羨ましい人たちが、
オーストラリアやバリじゃなくて、「あのウミガメくんに乗れるのなら」と、
みんなホノルルに行こうと考えるんじゃないでしょうか(個人の以下略)。

前記事でも書きましたが、飛行距離が延びるとただでさえ悪い燃費が
更に悪くなってしまい、ペイロードも減ってしまうので、
15,000km超の航続性能があるからと、マジになって欧州とか東海岸とかに飛ばすんじゃなく、
ホノルルまで6,000kmちょいというのは、燃費的にもいいと思います。
絶大なブランドイメージを浸透させるという観点でも、
中距離のリゾート路線の方が、回転も早くて老若男女たくさんの人に利用してもらえますしね。

保有数僅か3機、1路線の機材変更という、
ANA全体のフリート、路線網からすれば、ごく小さな出来事に過ぎない割に、
就航前にあれだけ派手な広告を打つということ一つとってみても、
ANAがA380を自社の広告塔として最大限活用するつもりであることを
物語っていると思います。
この記事作るためにA380やANA関連をいろいろググっているせいで、
オイラのパソコンは最近ANAのA380やホノルルに行こう!という広告が
やけに目立ってます(o ̄∇ ̄o)フフ

これも以前書きましたが、仮にホノルル路線単体で収益が上がらないとしても、
こうした諸々の効果は非常に大きいのではないかと。
実際に就航させてみて、少し落ち着いた後の搭乗率、A380を運航する他社、
中古機市場の動向等々によりけりなんですが、
オイラは、ANAは早ければ3年~5年程度で全て売却してしまう気がするんですが。
どうなりますか。

ANAのA380導入はネット上でも硬軟様々な話題が取り上げられていますし、
以下私事で恐縮ですが、オイラだってホントは、
わざわざA380の記事なんて書くつもりなかったのに、
ANAのCMを見て路線就航が近づくにつれ、居ても立っても居られなくなり、
こんな記事書いちゃう始末。
しかもサラッと1記事で終わらせるつもりだったのに、記事数が膨れてしまいました。
それもこれも全てANAのせい。
それから、このところずっとアラスカの空港記事をアップしていて、
そこに週一でA380記事を割り込ませている訳ですが、
記事の閲覧数はおおよそですが、A380のが3倍くらい多いです。
きっとANA導入でA380の方がそれだけ注目度があるんですね。


A380のその後
リース契約が終了して返却された元シンガポール航空A380の2機は
パーツ取り用として2018年末から解体が始まりました。
シンガポール航空は機齢の若い機材を使用する方針なので返却はいいとして、
通常20~30年が寿命の旅客機が、デリバリー開始から僅か11年で解体が始まってしまうというのは、
やはり寂しいものがあります。
「わざわざ解体しなくても…(´・ω・`)」と思うんですが、
これは売却先を探しても引取り手が見つからなかったためのやむを得ない措置です。
通常、発展途上国の航空会社が中古市場から機材を調達することが多いのだそうですが、
オペレーターとなっている航空会社を見て頂ければ明らかな通り、
A380を大量に飛ばせるのは、フラッグキャリアばかり。
中古機だからといって、小規模航空会社がそうそう気軽に手を出せる機材ではありません。
となると、中古機市場に流しても厳しい状況が今後も続くはず。
飛ばし続ける限りはパーツ交換が必要なんですが、
エアバスから純正品を仕入れるより、
解体した機体からパーツ取りする方が主流になるかも。
100機以上を飛ばしているエミレーツ航空は、そのうち共食いを始めるようになったりして。
A380を運航する航空会社は、
全機売却して自社の使用機種を絞るのか、少数残して運用を続けるのか、
はたまた使い倒すのか、同じくA380を運航する他社を見渡しながら
慎重に判断することになると思います。


(続きます)

ICAO/The World of Air Transport in 2017 

A380生産終了・1(胴体の話) 
A380生産終了・2(主翼の話) 
A380生産終了・3(エンジンの話) 
A380生産終了・5(メーカーの話・上) 
A380生産終了・6(メーカーの話・下) 


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