台湾・宜蘭(北)飛行場跡地 [└日本統治時代の飛行場]
(未訪問)2022/6更新
台湾の宜蘭(ぎらん)県宜蘭市にあった「宜蘭(北)飛行場」。
公共用飛行場として建設された飛行場なのですが、末期の時期に大幅に拡張し、特攻機の出撃基地となりました。
当飛行場の開場については、アジ歴/「宜蘭飛行場開場の件」で閲覧することができます(下記リンク参照)。
台湾軍参謀長から陸軍次官に宛てた書簡の中で、
「昭和11年6月30日工事完成。7月15日開場式典」
とあります。
また、アジ歴/「島内定期航空開始に関する件」によれば、同年8月1日~29日まで、
島内定期航空運行に先立ち、台湾島内完熟飛行が計画されました(下記リンク参照)。
この計画には、当宜蘭飛行場も含まれており、
大日本航空が運航する島内循環定期航空路線の1つとなっていました。
■国立公文書館デジタルアーカイブ 昭和十四年一月 航空要覧 逓信省航空局編輯 帝國飛行協会発行
の中で、「本邦定期航空現況(昭和十三年十二月現在)」として以下記されていました(7コマ)■
経営者 大日本航空株式会社
航空線路 台湾島内循環
区間 台北-台中間 毎日一往復
台中-台南間 毎日一往復
台南-屏東間 毎日一往復
屛東-台東間 毎日一往復
台東-花蓮港間 毎日一往復
花蓮港-宜蘭間 毎日一往復
宜蘭-台北間 毎日一往復
線路開設年月 昭和十一年十月
■国立公文書館デジタルアーカイブ 昭和十四年一月 航空要覧 逓信省航空局編輯 帝國飛行協会発行
の中で、「本邦飛行場一覧(昭和十三年十月現在)」として以下記されていました(8コマ)■
名 称 宜蘭飛行場
経営者 國
所在地 臺灣臺北州宜蘭郡宜蘭街金六結
水陸の別 陸
滑走区域 東西八〇〇米 南北八〇〇米
備 考 (記載無し)
■防衛研究所収蔵資料「航空路資料第10 台湾地方飛行場及不時着陸場 昭和15年4月刊行 水路部」
に当飛行場の図があり、先頭のグーグルマップはこの図から作図しました。
私的な話になってしまいますが、こうした図等の防衛研究所資料は、
防衛研究所資料閲覧室の複写室にて撮影するのですが、
冊子本を開いた丁度真ん中に滑走路図の西側部分がかかっていて、
冊子を力ずくで真っ直ぐに押し広げるなんて真似はとてもできず(本当はやりたいけど)、
写真ではすごい3Dになっているものを無理やり2Dに作図したため、
精度はかなり悪いと思いますが、おおよそこんな感じと思います。
2本の滑走路が組み合わさっていますが、現在も道路になんとなく滑走路の形跡が残ってますね。
この2本の滑走路、資料ではそれぞれA,Bとして区別されていて、
北東-南西方向()の方がメインのA滑走路、北西-南東方向()の方がサブのB滑走路でした。
同資料に情報がありましたので、以下引用させて頂きます。
宜蘭飛行場(昭和14年2月調)
臺北州宜蘭郡宜蘭町金六結字五結(宜蘭街の西方約1.8粁)
所管 宜蘭街
着陸場の状況
高さ 平均水面上約10米。
廣さ及形状 本飛行場は長さ北東-南西約800米、幅最大約200米及長さ
略東西約800米、幅約150米の地(総面積約25.8萬平方米)なり・着陸地域
内には図示の如く北東-南西及東西方向の両滑走路ありて北東-南西方向滑走
路(長さ約550米、幅約50米)の地区を最適とす(付図参照)。
地表の土質 砂を混ずる壌土。
地面の状況 畑地を飛行場として整地せしものにして地表転圧しある
を以て凸凹起伏なき平坦地なり、A滑走地区(南東側地区)は北西側に、B滑
走地区(西方地区)は南東方に夫夫下り傾斜(勾配約1/180)あり故にAB両滑
走区域の傾交する付近は豪雨の際瀦水となる箇所あり(付図参照)・滑走路は
砂利(空中より視認し得)にて転圧しあり平坦且堅硬なり・場の北東方及南西
方付近の未整地箇所は地表軟弱にして處々に裸地あり・西側練兵場に接する
地区は飛行場拡張予定地なり・場外周囲に排水溝を設け場中央付近に北東-南
西に走る暗渠あり集水桝を埋没しこれに雨水を注入せしむ・滑走路地区を除き殆
ど全面に芝、雑草を生ず・地面の状況は日射または季節などに因り特に変化なき
も降雨期には水溜を生じ地表軟弱となり乾燥期には表面粗□(髪の下が友ではな
く松)となる箇所あり(目下整地工事計画中)・場内西側に地名標識「ギラン」あり。
場内の障碍物 着陸区域内にはなし。
適当なる離着陸方向 北東又は南西、西北西又は東南東。
離着陸上注意すべき點 場の南東側を通ずる西〓堤防(高さ約3.5米、幅
約3.5米)及北西方約1.7粁に孤立せる枕頭山(72)は離着陸の際注意を要す
・西方に隣接せる陸軍練兵場は平坦なる芝地にして着陸場と誤認せざる様特に
注意を要す又飛行場との境には排水溝あり而して練兵場内の一部には塹壕及鉄
條網構築しありて着陸不可能なり之が警戒の為紅旗を掲揚しあり。
施設 飛行機格納庫なし・大日本航空株式会社臺北支所宜蘭出張場(高さ
約5.5米)・信号(吹流)柱(高さ約12米)・ギラン測候所飛行場出張所風速塔
(高さ約10米)・砂利敷滑走路(厚さ約5乃至7糎の砂利敷舗装)・地名標識
「ギラン」あり。
周囲の状況
山脈、丘陵及水田 本場は宜蘭街の西方約1.8粁に在りて宜蘭川の右岸に
位す付近は濁水渓の流域たる蘭陽平野にして東方は一帯に開豁なり又約8粁を
隔てて太平洋に臨む・西方には北方より南西方に向ひ連互する山脈ありて距離
約3粁にして其の山麓に達す、北西方約3.3粁に標高307米の高地及約1.7粁
に孤立せる高さ約72米の枕頭山あり・場の周囲は概ね水田地なり。
竹林 場外村落處處に竹林あり場の南西方のものは高さ約13米にして北
側周縁付近のものは約12米更に其の北方宜蘭川南岸付近のものは約15米あ
り。
並木 南東方を北東-南西に走る宜蘭街至三鬮間道路の両側に高さ約5米
の並木あり、北東方塵芥焼却場の西側を略南北に通ずる道路両側のものは高さ
約9米あり。
堤防 本場の南東側外苑に沿い高さ約3.5米の西〓堤防あり。
河川 濁水渓の支流宜蘭川(河端約120米)は場の南西より來り北西隅を
半圓徑に廻りて北東方に流る・場の北西方に高さ約6米の西〓橋あり。
煙突 北東方約2.3粁に煉瓦製造会社の高さ約36米の煙突及東方約1.2
粁に専売局酒工場の高さ約30米の煙突あり・場の東方火葬場に高さ約9.5米
及塵芥焼却場に高さ約15米の煙突あり。
建築物 飛行場に至る専用道路の西側に宜蘭測候所飛行場出張所(風速塔
高さ約10米)、入口付近に日航宜蘭出張所其の西隣に高さ約13米の信号(吹
流)柱あり、場の北東隅付近に塵芥焼却場、記念碑(高さ約4.2米)あり。
電線 場の東方に通ずる宜蘭市街至三星間道路に沿ふもの及之より飛行場
専用道路に沿ひ場内出張所に通ずる高さ約7米の電線及電話線あり。
着目標 宜蘭街、宜蘭川、地名標識「ギラン」。
地方の状況
軍隊 臺灣歩兵第1連隊宜蘭分屯中隊(宜蘭街坤門)東方約1.4粁。
警察署 宜蘭郡警察課(宜蘭街坤門)東方約1.4粁。
派出所 巡査派出所(宜蘭街坤門)東方約2粁。
役場 宜蘭郡役所(宜蘭街坤門)東方約1.5粁、宜蘭街役場(宜蘭街坤門)
東方約1.8粁。
医療 宜蘭街に医院約8あり・官立宜蘭病院及宜蘭陸軍分院は相当の設備
を有す。
宿泊 宜蘭街に内地人経営の旅館7(収容員数計300)あり。
清水 場内及宜蘭街に上水道の設備あり。
応急修理 宜蘭街に鉄工場4(内3は旋盤設備を有す)あり一時的応急修
理程度ならば可能なり。
航空需品 宜蘭街にて「ガソリン」潤滑油類少量ならば需むることを得。
交通運輸及通信
鉄道 宜蘭駅(宜蘭線)東方約2.4粁。
乗合自動車 宜蘭街より飛行場東側を経て三星に至る昭和自動車株式会社
の乗合自動車の便あり約1時間毎に発車す・最寄停留場(約0.15粁)は飛行場
前なり。
道路 場の南東方約200米に在る道路は巾約15米にして宜蘭街より三星
方面に至る、自動車類の運航可能なり又これに連絡する巾約10米の飛行場専用
道路あり。
舟艇 宜蘭川は傳馬船の運航可能にして河口に近く東港あり河口を東港口
と称し高潮時支那型船入河するを得。
車馬 宜蘭街に自動車(乗用約5、貨物約8、荷馬車約30、外に「リヤカ
ー」約653あり。
運送店 宜蘭駅前に丸通運送株式会社等約8あり。
電信及電話 宜蘭郵便局(宜蘭街宜蘭)約2粁、電信及電話を取扱ふ・飛
行場内に電話あり。
気象
測候所 宜蘭測候所(宜蘭街)東方約2.7粁、航空気象を観測す・目下飛
行場に測候所分室設置の計画あり。
地方風 当地方における季節風次の如し、冬季季節風は10月至翌年3月
間北東風吹続し11月至翌年2月間強烈なり但し隅隅支那朝鮮等の方向を低気
圧が通過する際は消滅することあり、夏季季節風は5月至8月間南西風吹続す
るも其の風力極めて微弱にして冬季の比に非ず但し颱風は概ね毎年襲来す8
月最も多し。
・昭和12年至13年2箇年間の統計に拠る月別(1)最多風向及(2)平均風速
次の如し。(月別データ省略)
天候 冬季吹続する北東季節風は西方に連互する山岳に接触し連日降雨を
□し恰も内地の梅雨の如き天候となることあり・夏季は天候概ね平穏なり。
昭和12年至同13年2箇年間の統計に拠る月別(1)快晴日数、(2)曇天日数、
(3)降水日数次の如し。(月別データ省略)
霧は3月至5月最も多し。
其の他
本飛行場は昭和11年7月公共用陸上飛行場として許可せられたるものにして
設置期間は昭和11年7月1日至同21年6月30日なり・目下臺灣島内循環定
期航空路の中間寄港地にして大日本航空株式会社の輸送機寄航し旅客及郵便物
の輸送を行ひつつあり・毎日東西両廻各1回往復発着す・昭和12年4月8日
陸軍軽爆撃機故障のため不時着せしことありと謂ふ。
に1/10,000の要図があり、上のグーグルマップはこの要図から作図しました。
サブのB滑走路、廃止になっちゃったんですね。
同資料の情報を以下引用させて頂きます。
位置
台北州宜蘭市金六結(宜蘭市西北約一粁)
滑走地区
滑走地区は従来更に東西方向に幅二〇〇米長さ
五〇米の一方向ありしも既に之を廃し荒廃地化
しありて使用不能なり
砂質壌土平坦にして芝密生しあり
「ギラン」の文字標識あり明瞭なり
雨期(一二月-三月)排水困難なり
飛行場
周囲開闊しあるも宜蘭川及南東側堤防(高
五米)障害をなし目下一方向の滑走地区は
辛して小型機の使用可能
気象
竹風蘭雨の如く新竹方面に風吹けば宜蘭
雨となり比較的雨量多し
交通
宜蘭市に至る道路あり
宜蘭線宜蘭駅より台北市に通ず
其の他
宜蘭川堤防気象上の障害等民間の定期航
路としても不適当なりしものヽ如く当市付
近に設くるとせば更に宜蘭市東方地区を可
とせん
所管宜蘭市に属す
2本あった滑走路が1本に減ってしまい、縮小したように見えるのですが、
其の他に記されている文言が一部フラグとなり…
青マーカーの辺りから北東に延びているのが元々A滑走路のあった「宜蘭飛行場」。
ご覧の通りで、南側にV字滑走路、そして南西にも滑走路が建設されました。
一気に滑走路が増えた事に目を奪われがちで目立たないんですが、
元祖A滑走路、800mから1,700mへと、こちらも大拡張しています。
宜蘭の飛行場が3つになったため、元々の「宜蘭飛行場」は「宜蘭(北)飛行場」となり、
それ以外も「宜蘭(南)飛行場」、「宜蘭(西)飛行場」として区別されるようになりました。
「宜蘭(南)飛行場」と「宜蘭(西)飛行場」については、別記事で取りあげます。
台湾・宜蘭(北)飛行場跡地
・宜蘭飛行場(1939年調) データ
所 管:宜蘭街
種 別:公共用陸上飛行場
所在地:臺北州宜蘭郡宜蘭町金六結字五結
座 標:24°45'14.9"N 121°44'16.8"E
標 高:10m
飛行場:北東-南西約800mx約200m、東西約800mx約150m
面 積:25.8ha
滑走路:A550mx50m(05/23)、B500mx50m(11/29)
(座標、B滑走路長さ、方位はグーグルアースから。他は資料から)
・宜蘭飛行場(1944年資料) データ
所 管:宜蘭市
種 別:陸上飛行場
所在地:台北州宜蘭市金六結
滑走路:800mx200m
方 位:05/23
(方位はグーグルアースから。他は資料から)
・宜蘭(北)飛行場(1945年地図) データ
種 別:陸上飛行場
所在地:台湾宜蘭県宜蘭市泰山里
標 高:9m
滑走路:1,700m?x250m(05/23)
方 位:05/23
(標高、滑走路長さ、方位はグーグルアースから)
沿革
1936年06月 30日 工事完成
07月 15日 開場式典
07月 公共用陸上飛行場として許可
08月 1日~29日まで台湾島内完熟飛行
1937年04月 8日 陸軍軽爆撃機故障のため不時着
1941年 南飛行場建設
1945年08月 終戦
1946年 国民党防衛部隊の管理下におかれる
関連サイト:
太平洋戰爭下日本陸軍於高雄地區的機場整備與航空隊部署■
アジ歴/「宜蘭飛行場開場の件」■
アジ歴/「島内定期航空開始に関する件」■
U.S. Army Map Service,/Giran■
ブログ内関連記事■
この記事の資料:
防衛研究所収蔵資料「飛行場記録 内地(千島、樺太、北海道、朝鮮、台湾を含む) 昭和十九、四、二〇調製 第一航空軍司令部」
防衛研究所収蔵資料「航空路資料第10 台湾地方飛行場及不時着陸場 昭和15年4月刊行 水路部