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MRJ・1 [├雑談]


去る10月18日、MRJがロールアウトしましたね(今更ですけど)。

例によって思いつくままにグダグダと書き連ねてみました。

その筋の方にとっては分かり切った話ばかりですが、宜しければご覧くださいませ。

 

407機

mrj3.png
(2014年11月現在)

表の通り、MRJはオプション、購入権含めて計407機となっております。
(購入権:「製造スロットの確保はないが、特定の期間内に確定した発注条件と同条件で航空機を購入できる権利」)

JALは2014年8月にやっと購入公式発表の運びとなり、これでやっとMRJ生産国の大手二社が揃って発注となりました。

これまでメーカーの三菱航空機は売り込みの際海外の航空会社から、

「MRJが優れているというなら、なぜJALは買わないんだ?」と何度も質問され、返答に困っていたのだそうです。

そんなツッコみを受ける心配もこれで無くなりますね。

 

182機

旅客機の機種選定では安全性の実績が重視されるため、MRJは非常に分が悪くなります。

加えてMRJが参入するクラスは、ボンバルディア、エンブラエルという老舗の二強で市場が既に二分されている状況です。

にもかかわらず、試験飛行はおろか、やっとお披露目をしたばかりというこの時点で407機というのは、

個人的には全く予想していませんでした。

(少なくとも現時点で)MRJは大健闘だと思います。

YS-11の全生産数は182機で、受注100機を確定したのは、ロールアウトから6年も後だったことを考えると、

隔世の感があります(;´Д⊂)

 

57機

改めて上の表を見て頂きますと、日本の発注は合計57機で、これは全407機のうち僅か14%に過ぎません。

せっかく半世紀ぶりの国産機なんだから頑張ってもっと買ってよ~!

と思ってしまうのですが、ANA,JALグループの同クラスの保有機数はどうなっているかといいますと、

mrj2.png

こんな感じ。

現在同クラスは両社合わせて47機保有ですから、MRJをオプション込みで57機発注というのは、保有数以上です。

こうして見ると、両社ともMRJ購入頑張ってました。

 

競合機

MRJの座席数は78~92で、「100席以下のリージョナルジェット機」にカテゴライズされ、

特にMRJと座席数の被るクラスには、前述の通りボンバルディア(CRJ700NextGen,CRJ900NextGen)、

エンブラエル(E170,E175)という二強の他、

MRJより一足先に参入したロシアのスホーイ・スーパージェット100、中国のARJ21があるのですが、

スホーイの「スーパージェット100」は2012年5月にインドネシアでデモ飛行中に墜落してしまい、後退を余儀なくされています。

また、「ARJ21」は08年に初飛行を行ったのだすが、未だ中国航空当局の型式証明を得ておらず、

三菱ではロシアと中国の両機を競合と見なしていません。

老舗二強のうち、エンブラエルはMRJと同じ100席以下のE175を新型エンジンに換装したE175-E2(以下E2)を開発中で、

後述しますがこれはMRJにとって非常に手ごわい競合機となります。

もう一方のボンバルディアは現在MRJよりサイズが大きなCシリーズ(100~145席クラス)の開発を進めているのですが、

MRJと同クラスの機体に関しては現在のところ新規の開発計画がありません。

このため、新型エンジンを搭載したMRJ、E2が登場すると、

ボンバルディア機は一気に商品力を失うことが予想されます。

これは、ボンバルディアは100席以上のクラスに軸足を移しつつあるということのようです。

そのため、100席以下のリージョナル機の市場は今後、エンブラエルとMRJの一騎打ちになるだろう。

というのが三菱側の見方です。

 

主翼

三菱といえば、炭素繊維素材で787の主翼を製造しています。

この大きさの主翼をこの素材で一体成型しているのは現在のところ三菱が世界で唯一であり、

当初はMRJの主翼も同様に炭素繊維素材で製造する計画でした。

ところがリージョナル機のサイズでは主翼を炭素繊維素材にしても期待したほどは軽くならないのだそうです。

加えて炭素繊維で主翼を作るには専用の炉が必要で、設備投資負担が非常に重くなります。

787の主翼用の炉を共用する訳にはいかないんでしょうか。そんな簡単なもんじゃないんでしょうね。

そのため費用対効果を検証した結果、素材をアルミに切り替えたのだそうです。

主翼を炭素繊維素材にしていたらMRJの目玉の1つになっていたのでしょうけども。。。

実はMRJは競合機より機体価格がお高いです。

炭素繊維素材は金属より非常に高くつくので、その辺のところも考慮したのかもしれません。

 

お家芸ともいえる炭素繊維素材製主翼を断念した訳ですが、金属素材にした利点もあります。

現在のところ三菱航空機では、座席数の異なるMRJ70、MRJ90の2タイプを製造することにしているのですが、

将来的にストレッチ型の製造を視野に入れています。

主翼を複合材にしたとすると、構造の変更が難しいため、ストレッチ型を作ることを前提に、

1つの主翼で全タイプ使い回すつもりでした。

小さい方から順に並べると、MRJ70<MRJ90<ストレッチ型 となり、MRJ90が真ん中にきます。

それでMRJ90に最適な主翼を3タイプ共用とするつもりだったのですが、

この場合最小のMRJ70にとっては頑丈過ぎて重い主翼となってしまいます。

ところが主翼を金属製にすると、構造の変更が容易となる為、それぞれのタイプに最適な主翼を用意することが出来ます。

 

胴体

旅客機は客室の床下を貨物搭載スペースにするのが一般的です。

今後長くMRJの競合機になるであろうエンブラエルのE2も床下に貨物搭載スペースを設けています。

床下部分の有効利用ではあるのですが、中/大型旅客機と比べて、リージョナル機は胴体が非常に細いため、

胴体断面を真円にして、乗客が極力窮屈に感じないようにすると、床下に貨物用のスペースを設ける余地が限られてしまいます。

そこでエンブラエル機の胴体断面は、円の下を少し膨らませて下向きの洋ナシのような形になっています。

この下部の膨らみで貨物用のスペースを確保している訳です。

 

一方MRJの場合、当初は胴体前方の床下の一部と、胴体後部(胴体が絞り込まれて尻上がりになってるあたり)

の二カ所に貨物スペースを設ける計画だったのですが、胴体前方の貨物室を廃止して、胴体後部一カ所にまとめました。

胴体の尻尾の部分は客室にすることもできないので有効利用です。

前部貨物室は廃止しましたが、胴体後部の貨物スペースを大きくしたので、容積は変わらず、

1つにまとめたことにより、荷物搭載個数は少し増えるのだそうです。

三菱側では、これで貨物の取り扱いが容易になり、作業効率の向上が図れるとしています。

貨物室が二カ所に分かれていると、荷物出し入れ用のドアをそれぞれに設けなければなりませんが、

胴体に穴を開けると、その部分が弱くなるため補強が必要です。

重量面で考えると開口部は少ないのに越したことはありません。

 

この規模のヒコーキだと貨物はグランドハンドリングさんが1個1個手積みで行います。

貨物スペースがE2より高い位置になるのですが、作業が大変じゃないのかしらん。 

MRJの図面にモノサシ当てての数字なのですが、前方床下貨物室の最低地上高は1.99mでした。

これだとバッグを頭の上に持ち上げるようにしてなら、なんとか積み下ろしできそうですね。大変と思いますけど。

後方貨物室の場合、最低地上高は2.7mでした。

こちらは流石に作業車出動レベルですね。

 

三菱の資料によれば、MRJの胴体外径は縦横共に116.5インチです。

床下に貨物スペースを設けていないため、胴体はエンブラエル機より細くて済み、

胴体外径の高さの比較では、MRJの方が39.37cm低くなっています(横幅もMRJの方が5cm細い)。

一方客室内の最大高さの比較では、

ボンバルディアCRJ→1.89m、エンブラエルE170→2.00m、MRJ→2.045m で、

胴体はエンブラエル機より細い(低い)のですが、MRJがクラス最大の客室内高さとなりました。 

胴体の細さは重量、空気抵抗面でも有利です。

 

エンジン選定

MRJのエンジン選定には紆余曲折がありました。

当初大本命はロールスロイス社(以下RR)製のエンジンで、

その後信頼と実績のあるゼネラル・エレクトリック社(以下GM)のCF34エンジンに傾いたと言われています。

因みにCF34は、ボンバルディアとエンブラエルがMRJと同クラスに使用しているエンジンでもあります。

「世界三大エンジンメーカー」と言えば、RR、GM、それにもう一つ、プラット&ホイットニー社(以下PW)なのですが、

特に当時のPWはこの三社の中で最も元気がありませんでした。

どのエンジンを採用するかはその旅客機の命運を左右すると言っても過言でない程重要であり、

手堅くまとめるのであれば、MRJが選定するのはRRかGMであろう。と思われていたのですが、

大方の予想を覆し、三菱が選んだメーカーは、当時最も元気のないPWで、

しかもそのPWが開発に手を焼いていた未完成のエンジン(GTF)でした。

 

GTF

「GTF」は、PW社のエンジンの商品名ではなく、エンジンタイプの略称です。

GTFは、「ギヤード・ターボ・ファン」の略で、後述しますがこのエンジン最大の特徴である、

「ギヤードしたターボファンエンジン」。ということです。そのまんまですけど。

GTFは従来のターボ・ファンエンジンと比較して、格段の低燃費と低騒音が特徴のエンジンです。

2007年10月に三菱がMRJのATO(正式客先提案)決定の発表を行った際、

搭載エンジンをPW社のGTFエンジンとすることも公表され、業界関係者を驚かせました(@Д@)

ATO発表時、 このエンジンは未だ開発中であり、三菱航空機がPW製GTFの顧客第一号となったのでした。

(余談ですが、この時には2011年にPW社製GTF搭載のMRJが初飛行する計画でした。ところがMRJはその後3度の遅延を繰り返してしまい、2013年9月にボンバルディアのCシリーズ試作機が初めてGTFエンジンで空を飛びました)

 

なぜGTFなのか

GTFエンジンの理論自体は古くからあって、実用化できれば非常に理想的なエンジンになることは誰の目にも明らかであり、

GEもRRもGTFの開発を進めてはいたのですが、種々の技術的な問題点があり実用化には至っていませんでした。

そんな中、PWが二社を出し抜く形で、この難しいエンジンを「必ず完成させてMRJに搭載します!」と宣言した訳です。

そのためこの革新的な、しかし技術的に困難とされてきたエンジンが本当にPW社の宣伝通りのものに仕上がるのか、

そもそも無事開発することができるのか危ぶむ声があり、実際開発には相当手こずりました。

PWでは、この時点で既に二十年の歳月と数千億円規模の開発費を投じていて、

三菱側でも、このエンジンが本当にモノになるのかどうか、慎重に調査を進めていました。

そして検討の結果、「これなら大丈夫」という目処が立ったことから正式発表の運びとなったのですが、

それでも前述の通り、旅客機には安全性と実績が強く求められるため、実績のないメーカーが作る旅客機と、

新機軸を盛り込んだ(失敗するリスクの高い)開発中エンジンの組み合わせは如何なものか。という声がありました。

GTFは高性能を謳っているのですが、未だ開発中の段階で採用を決定するのは、かなりのギャンブルだった訳です。

それでも三菱側としては、「最後発の我々が世界のライバル機と伍していくためには、圧倒的な性能差が必要である」。

という考えの下、この高性能且つ特殊なエンジンを搭載する事を前提に機体設計が進められたのでした。

 

ゲームチェンジ

結果的にこのエンジンは無事形になり、画期的なエンジンを採用した唯一の旅客機であるMRJは、

従来機との比較で二割燃費が良く、騒音は小さく、排気ガスも少ないという、

航空会社のニーズに即した魅力的なヒコーキとなり、

ライバル機と比して圧倒的な性能を得て、着実に受注数を増やしていったのでしたヽ(*´ヮ`)ノ

リージョナル機の平均的な1日当たりの総運航距離は約6,000km。

1機当たりの燃料コストは、年間おおよそ6億円。

燃費性能が2割優れていればそれだけで年間のコストが1.2億円浮く計算になります。

燃料高に頭を抱える航空会社にとって、これは非常に魅力的です。

2007年10月の公式発表にはPW社の社長も訪れており、自社で開発を進めるGTFについて、

「世界のエアラインにとってこれまでの概念が一変する程の大きな変化」、「ジャンプアップ」、「ゲームチェンジ」

等と、如何に革新的にエンジンであるか豪語していたのですが、それも道理と言えるでしょう。

 

エンブラエル側の動き

三菱が「一騎打ちの相手」と目すエンブラエルは2013年6月、

現行のE175をMRJと同系のエンジンに換装したE2を開発すると発表しましたΣ(゚Д゚;)

そのため、「無二の低燃費性」という利点がMRJだけのものではなくなりました。

ANAがMRJを25機導入(うちオプション10機)すると表明してローンチカスタマーとなったのが2008年3月。

そこから6年掛かりで2014年になってやっと受注400の大台まで積み上げたのですが、

相手はこのクラスの東の横綱。実績抜群の老舗エンブラエルということもあり、

E2シリーズはこの1年あまりで400機を超える受注を獲得して、あっという間にMRJに並んでしまいました。

ブランド力絶大なメーカーが後発の利を存分に活かした形です。

 

このように、PWエンジンはこのクラスの旅客機の勢力図に大きな影響を及ぼす存在となった訳ですが、

「ピュアパワーPW1000G」と名付けられたこのエンジンが、エンブラエルの既に採用しているGMのCF34エンジンと

大きさ、重さがさほど変わらずに高性能であれば、単なるエンジンスワップで済んだはず。

これはMRJにとっても同様で、仮にこのエンジン開発が失敗に終わった場合、

代わりにRR、GEから適当なエンジンを見繕えばそれでいいや。ということで済まされたはず。

しかし、ことPW1000Gに関しては、そう単純な話ではありませんでした。

 

回転事情

現代のジェット旅客機のエンジンを前から覗くと、筒の中に大きなファンが回っていて、これが推力の大部分を生み出しています。

ジェットエンジンのしくみは、燃焼ガスのエネルギーで風車(タービン)を回し、

その回転を利用して圧縮機とファンを回すようになっています。

とてもよく出来た仕組みなのですが、1つ問題が。

低燃費、低騒音化のため、ファンは近年大径化の流れなのですが、

ファンをどんどん大きくすると、回転するファン外周が音速を超えてしまい効率がガタ落ちになってしまいます。

本来、「ファンで発生させた空気の流れがジェット噴流を包み込むため、ターボ・ファンは低騒音」なのに、

ファン外周が高速になるごとにファンの風切り音がバカにならなくなってしまいました。

ファンの回転速度を下げれば、効率改善、低騒音になります。

ということでファン外周が音速を超えない丁度良い回転数で回したいのですが、

その元となるタービンの側にも都合の良い回転数というのがあり、それはファンの都合よりうんと早いのです。

そのため従来のエンジンの場合、回転軸(シャフト)を多軸化して、

「高圧縮機はこの軸で回す」、「ファンと低圧縮機はこの軸で回す」

などと担当を分けたりして、なんとか妥協を図っているというのが現状です。

 

GTFの長所と短所 

【GTF:ギヤード・ターボ・ファンエンジン】はその名が示す通り、ターボ・ファン・エンジンの一種です。

多分オイラのような素人では、GTFと従来のターボ・ファンエンジンの見分けはつかないと思います。

前から見ても普通にファンがぐるぐる回るだけですし。

 

-タービンには思う存分回ってもらい、減速ギアを介してシャフトの回転数をうんと落とし、丁度良い速さでファンを回す-

これがGTFの概念です。

それぞれにとって最適な回転数を両立し、エネルギー変換効率を大幅に向上したPW1000Gは、

従来のものと比較して、格段の低燃費、低騒音を実現しました。

しかしその反面、「減速ギア」という新機軸を採用した結果、大きく、重量がかさむという短所があります。

 

PW1000Gの名称について

マニアックな話ですが。

この記事作成に当たり、MRJ関連記事をいろいろ見たのですが、「搭載エンジンはPW1200Gである」とか、

「以前はPW1000Gであった」等、エンジンの名称については様々な記述があります。

そこで本家のサイトに行ってみました。

PW社のサイトから民間機用エンジンの頁に進むと、同社のエンジンがあり、

PurePower PW1000G
V2500
GP7200
PW4000
PW2000
PW6000
JT8D
JT9D

と、8種のエンジンが並んでいます。

下の2つ、JT8DとJT9Dは初期の747やDC-9等のエンジンなので別として、

近年PWのエンジンは名称の後半に0がたくさん並んでます。

そして、MRJ搭載のピュアパワーエンジンだけ、末尾が"G"になっています。

ということでこのGは、「ギア」を使用した画期的なエンジンであることをこれ見よがしに強調しているのだと思われます。

公式サイト内の表では、 "PW1000Gエンジンファミリー" でまず大きくくくってあり、

そこから更に、MRJ用のPW1200GからエンブラエルE2用のPW1900Gまで6種類に分かれています(エンジンサイズ、推力がそれぞれ異なる)。

そしてMRJ用のPW1200Gは、MRJ70用のPW1215Gと、MRJ90用のPW1217Gの2つに分かれています。

「MRJ90か。じゃあ、PW1217Gの方だね~」とか言う人がいたら相当マニアックですので注意した方がよいです。

詳しくは公式サイト(下記リンク参照)をご覧ください。

 

ハネウェル社

ここまで、さもGTFエンジンがPW社により初めて実用化したかのように書いてしまいましたが、

実はGTFエンジンは米ハネウェル社で1970年代から既に実用化されていましたΣ(゚Д゚;)

とは言っても、PW1000Gよりずっと小型のもので、推力はMRJ用の1/2以下、E2用の1/3以下という、

主にビジネスジェット用の小型エンジンです。

GTF方式が理想的であることが分かっていながらこれまで小型機用しか実用化していなかったのは、

GTFの特徴である減速ギアを軽量化と信頼性を両立しつつ大型エンジンに組み込むのが非常に困難なためです。

PWは傘下に世界を代表するヘリコプターメーカーのシコルスキーを有しているのですが、

現代の高性能ヘリはジェットエンジンの軸回転でローターを回しています。

でもそのままだと早過ぎるので、減速ギアを介しています。

減速ギアを介して回すのがローターか、ファンか、という違いだけで、この理屈はGTFそのものです。

PWではこうしたヘリで培ったノウハウの上にGTFを開発したのだそうで、

そう聞けば他社に先駆けて大型化に成功出来たのも当然と言えるのかもしれません。

実はGEは2000年にハネウェル社を買収しようとしていました(結局頓挫した)。

GTF開発のことも少しは関係あったんでしょうか??

 

太い

「GTFエンジンは従来型より大きく、重量がかさむという短所があります」と書きましたが、具体的な数字で比較してみました。

エンブラエルで開発を進めているE2は、E175という既存機をベースにエンジンを換装したもので、

ベース機の使用エンジンはGE社製CF34-8E。

そしてE2が使用予定なのは、PW社製PW1700G。

ということで、CF34-8EとPW1700Gの比較です(推力はPWの方が約20%大きい)。

まずファンの直径ですが、 CF34-8Eが1.17mなのに対し、PW1700Gは1.42m。

PW1700Gの方がファンの直径が25cm大きいです。

本当はファンの直径ではなくて、エンジンそのものの直径が知りたかったのですが、

CF34-8Eは「最大直径1.35m」と出ているものの、PWの方は分かりませんでした。

CF34-8Eの最大直径より、PW1700Gのファンの直径の方が大きいですから、外径もそれなりに太いのだと思います。

 

重い

そして重さですが、こちらはCF34-8Eの数字がすんなり見つかったのに対し、

PW1700Gの方はどう探しても、ナセル(エンジン覆い)込みの数字しか見つかりませんでした。

一応、 CF34-8Eが1,180kgなのに対し、PW1700Gは2,450kgでした。

ナセル込みの数字ではありますが、倍以上重いです。

仮にPW1700Gの方が1,0000kg重いとすると、 双発機ですから合計で2t重くなります(XДX)

航空会社の計算に則って、乗客1人+手荷物で75kg とすると、26.7人で2tです。

26人ともなると、もうストレッチ型が必要になるほどの差ですから、

リージョナルジェットにとってこのエンジンが如何に重いかということです。

 

専用設計

リアエンジン機が如何に短い脚をしているかを見れば明らかな通り、

ヒコーキにとって降着装置は非常に重く、飛行中は完全にお荷物になってしまうため、可能な限り軽く、短く設計します。

人間とは異なり、ヒコーキの脚は短い程良いです。

一方、MRJとエンブラエルのE2は主翼の下にエンジンを吊り下げる方式です。

そのため設計時には重量面を考慮して、できるだけ短い脚にしなければならない。ということを大前提に、

搭載予定のエンジンサイズを考慮して、路面に擦ってしまわないよう最低限の地上高を確保しなければなりません。

そんな訳で、途中からずっと太いエンジンに換装するというのは大問題になりかねないのです。

脚の長さはほんの一例で、これだけエンジンの大きさ重さが異なるとなると、

機体構造、機体形状、空力が変わり、飛行性能面でも様々な数値が変わることになります。

リージョナルジェットのもう一方の雄、ボンバルディアのCRJは、元々ビジネスジェットから派生しているためリアエンジン方式で
(ビジネスジェットはごく一部の例外を除き全てリアエンジン方式)、

仮にCRJのエンジンをGTFに換装したとすると、エンジンの太さのしばりはE2より緩いとしても、

胴体後部の重量がいきなり数トン単位で変わってしまうことになります(XДX)

ヒコーキは主翼で浮いているので、シーソーのように前後バランスがとれていなければならず、これは非常にマズイです。

ボンバルディアが1クラス上のCシリーズ(主翼にエンジン付いてる)ではGTFエンジン採用を決定したものの、

CRJの方はエンブラエルのようにGTFエンジンに換装する計画がないのは、

前後バランスが数トン単位で崩れてしまうエンジン換装はとても現実的ではないという点が大きいのではないかと思います。

 

一方、 MRJは最初から太くて重いPW1000G搭載を念頭に、エンジン性能を最大限引き出せるよう設計しています。

そのため、「同一エンジンの採用で差は縮まるとしても、MRJの優位性は揺るがない」。というのが三菱側の主張です。

エンブラエルはE2について、「新型エンジン搭載で燃費を一割改善した」と宣伝しています。

MRJが二割と言っているところを、E2は同型のエンジンで一割。

もしかしたら、これが専用設計の差なのかもしれません。

 

もしも三菱航空機がMRJのエンジンを無難に二強と同じCF34系に決定していたとしたら、

そしてモノになったGTFをエンブラエルのE2が採用すると発表していたとしたら、一体どうなっていたでしょう。

三菱航空機はMRJをGTFエンジン搭載に決定する以前から、空力、居住性等優れた性能にするつもりだったのですが、

海外の航空会社にとってみれば、MRJは無名で実績のないメーカーの凡庸なヒコーキと映るはず。

片やE2の方は、実績十分な機体をベースに、画期的な新型エンジンで更に低燃費を実現したヒコーキ。

…MRJ終わってたかもしれません(・д・川)

恐ろしや。

仮にMRJも後からGTF用に設計をやり直すとしたら、開発費用と時間が更に膨れ上がることになります。

三菱のGTF採用というのは大英断だったと思います。

 

GTFの今後

これまでリージョナルジェット市場を二分してきたボンバルディアとエンブラエルは、

前述の通り、全てGE社のCF34系エンジンを使用しています。

そして現在開発が進められているエンブラエルの次世代型E2シリーズと、

同じく開発が進むボンバルディアの一回り大きいCシリーズは、

すべてPW社のPW1000G系エンジン搭載が決まっています。

まるでオセロのように小型旅客機市場をひっくり返してしまったPW社のGTF。

エアバスのA320neoにもCFMインターナショナルのLEAP-Xか、PW社のGTFのどちらかを選択できるようになっています。

これは最大240席クラスの大きなもので、搭載するエンジンもMRJ搭載型の推力が15,000~17,000lbsなのに対し、

こちらは24,000~33,000lbsという大きなものです。

 

特殊な構造から、これまでずっとビジネスジェットがせいぜいだったGTFですが、PWの開発でここまで大型化しました。 

小型旅客機でこれだけの可能性を見せましたから、当然今後は更に大出力GTFの開発に注目が集まることになります。

PW社では既に777X(350~400席クラス)搭載エンジンにもGTFを提案する等、

PWではGTFを今後のエンジンの主流にするつもりであり、

ボーイング、エアバスとワイドボディー機搭載についての商談も始まっています。

かつてターボ・ファンエンジンの登場によって、旅客機から戦闘機に至るまでターボ・ジェットがすっかり駆逐されてしまったように、

RRとGEがPWに追従して、今後GTF一色になるのか、それともRRとGEは別の方法を採るのか、興味深いところです。

「世界三大メーカー」といえども、互いに共同でエンジン作ったりしてますから、

「減速ギアはPWが担当」とかの形で、三社若しくはPWともう一社という形の共同開発でGTFが増えていくのか、

PWにとって今のところGTF技術はライバルと差別化を図る強力な武器ですから、仲良く共同開発などとぬるいことをせず、

ここで一気にエンジン界の覇権を握ろうとするのか、今後のエンジン業界の動きが非常に気になります。

 

(なんか途中からエンジンの話になっちゃいましたが)続きます。

 

この記事の資料:
MRJ公式サイト   
JAL公式サイト/グループ使用航空機数   
ANA公式サイト/機材数   
東洋経済オンラインのMRJ関連記事
日経ビジネスオンラインのMRJ関連記事
国産旅客機MRJ飛翔 前間孝則著
PW公式サイト/PW1000G 
GE/CF34-8E     


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コメント 7

oldman

MRJは、今か今かと待ち続けて、いまだフイルムカメラにこだわり、撮影しています。私の知らない話が多数!! 参考になります。

by oldman (2014-11-27 21:36) 

an-kazu

おかげさまで、また知ったかぶりができそうでする ^^) _旦~~
by an-kazu (2014-11-27 22:38) 

me-co

凄いです。某誌のMRJロールアウト特集も見ました(立ち読み)が、とりさんのほうが圧巻ですね・・・しかもまだ続くんですね^^;
確かに、途中からエンジンの話に軸足が移ってますが、わたくしも、あの減速機構=プラネタリーギアが、どうなってるのか?興味があるのでオッケ~!^^
ところで、炉=オートクレーブですが、FHIで聞いた話、入れてから(加圧加熱して)出すのに時間がかかるんですよ。そうすると違うラインのものを入れるとなると工程上交錯するので、汎用に出来ないんでしょうね。ちょいとかじりの話ですみません。
by me-co (2014-11-28 01:24) 

おろ・おろし

とりさんの情報収集力に感心いたします。

ぜひMRJが運航を始めた時には、テレビで解説者として
登場されることを首を長くして待っています!!
by おろ・おろし (2014-11-29 09:18) 

とり

皆様 コメント、nice! ありがとうございますm(_ _)m

■OLDMAN様
MRJの地元ですから羨ましい限りです。
MRJ試験飛行等、撮影されるのでしょうね~。
レポ楽しみにしております!

■an-kazuさん
お茶ご馳走様です~(o ̄∇ ̄o)
お礼にオイラからも。^^) _旦~~

■me-coさん
過大のお言葉、恐縮ですm(_ _)m
FHI情報ありがとうございました。
そうなんですか。じゃあやっぱり難しいですね。
少し前にme-coさんからスカイマークのA380のこと言われて、
少し調べてみたのですが、単なる短信とか劣化コピー記事になりそうで、
自分の意見を含めつつ膨らませるような記事は書けそうにありませんでした。
折角お声掛け頂いたのに、すみませんm(_ _)m

■おろ・おろしさん
この記事と次の記事はおろ・おろしさんに言われなければ書かなかったです。
ご期待のものとは異なる点も多々あるでしょうが、これがオイラの精一杯です。
by とり (2014-11-29 11:24) 

鹿児島のこういち

いやぁ~よく調べておりますなぁ(^O^)勉強になります。エンジンひとつ、胴体や翼にしろ、いろいろあるのですね。
by 鹿児島のこういち (2014-11-29 19:40) 

とり

■鹿児島のこういちさん
オイラも記事作ってて勉強になりました^^
by とり (2014-12-01 04:56) 

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