三菱スペースジェット・3 [├雑談]
今更ですが、三菱スペースジェットがアレですね…つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
MRJがロールアウトした2014年、関連記事を2つアップしました■■
(もう続かない)と書いたのですが、今回はその続編です。
以下、例によってぐだぐだと。
■勝機を掴んだMRJ
一概に「リージョナルジェット」と言っても、B737やA319まで含めると座席数にかなり幅がありますが、
70~90席クラスとして開発が始まったMRJの競合機としては、
ボンバルディア社のCRJ700(70席クラス)と、CRJ900(90席クラス)、
エンブラエル社E-JetシリーズのE170(70席クラス)と、E175(80席クラス)がありました。
どちらも派生型が充実している大ヒット作で、リージョナルジェット市場を拡大させた2強です。
使用エンジンは2社とも信頼と実績のGM社CF34系。
そんな中、三菱はPW社のギヤード・ターボ・ファン(以下GTF)エンジンを選定したのでした。
GTFは低騒音、低燃費の画期的なエンジンで、ビジネスジェットクラスでは既に実用化されていたのですが、
リージョナルジェットクラスとなると、実用化は技術的に非常に困難で、
実はGEも実用化に挑戦したのですが、断念した過去があります。
2007年10月9日、三菱がMRJのATO(正式客先提案)を行った際、併せてPWのGTF選定も発表したのですが、
当時のPWは三大エンジンメーカーの中で最も元気がなく、
しかもこのエンジンは長年開発を続けていたものの未だ未完成であり、
本当に実用化できるのか疑問視されていました。
「実績のないエンジン」ということは、路線に投入してから不具合が出る可能性があります。
これは余談になってしまいますが、ANA国内線使用のB777が搭載しているPW400エンジン(GTFではない)
に不具合が見つかり国交省から運航停止措置が出て、先日やっと運行が再開しましたが、
運行再開までには、ナント16ヵ月も要しており、
15機すべてを改修して路線投入するには、これから更に4ヵ月かかるとのことです。
こうした運航停止までいってしまうトラブルはなにもPWに限った話ではなく、
少し前にはANA B787搭載のRRエンジンでもありました。
"通常のエンジン"でもこんなトラブルがつきものなのに、ましてやGTFは新機軸を盛り込んだエンジンです。
これまでの知見が活かせないどんなトラブルが発生するかも分かりません。
実際GTFはイザ運航が始まるといろいろあって、航空会社から受け取りを拒否られたりなんてこともありました。
しかもGTFの場合、後述しますが機体がすっかり完成してから、
「GTFは開発がムリっぽいから、やっぱり信頼と実績のGM社CF34系にしよう」
と簡単に他のエンジンに変更するのが難しい事情があります。
「GTFを使う」という三菱の決定は、GTFと一蓮托生も同然であり、
関係者一同(いろんな意味で)ビックリだったのでした。
これは三菱にとってかなりのギャンブルではあるのですが、
新参者で実績のない三菱が世界の航空会社から興味を示して貰うには、大きなセールスポイントが不可欠なのです。
そしてGTFには、2強に先駆けて「世界初採用」を目玉にするだけの価値がありました。
三菱は、GTF搭載のMRJは従来機と比較して格段の低騒音、燃費は2割も低減可能であることをアピールしました。
PW社のGTF公式サイトによれば、ファン速度は前世代エンジンと比較して40%遅くなり、
最大75%の騒音低減を実現としています■
(GTFがどれだけ低騒音か比較した動画■)
燃費に関しては、MRJのATOと同じ頃、ボンバルディアはCRJの改良型である"NextGen"を発表したのですが、
「燃費効率5.5%向上」を謳っていました。
「燃費向上を実現した新型機です!!」なんて言っても、普通はこの程度のレベルアップがせいぜいと思うのですが、
MRJではそれが一気に20%ですからね。
公式発表に同席したPW社長は、「GTFはゲームチェンジャーになる」と豪語してました。
結果的にPW社はGTFエンジンを宣伝通りの性能で無事完成させ、
三菱にとってはかなりのギャンブルでしたが、この完成を受け、勝機を掴むことができたのでした。
そして三菱の目論見は大当たり。
低騒音、燃費性能に優れたMRJには続々と注文が相次ぎ、
初飛行もしないうちから、確定223機、オプション180機、購入権4機、
合計407機の受注を得ることに成功したのでした。
この受注ペースは過去に例のないものだったそうですヽ(*´ヮ`)ノ
三菱のATO(2007年10月)当時のボンバルディアとエンブラエルの受注状況について、
過去記事をいろいろ漁ってみたんですが、こんな数字がありました。
ボンバルディア社:CRJ(1991年初飛行)
2008年1月末のCRJ全体の受注残:188機
2008年3月下旬時点:NextGenシリーズ全体で205機の確定注文■
エンブラエル社:E-Jet(2002年初飛行)
2007年12月現在の確定受注は、E‐170:170機、E-175:129機 計:299機(21コマ)■
受注残だったり、確定受注数だったり、
CRJは50~100席超まで幅がある全モデルの数字であるなど、すんなり比較できない数字ではあるのですが、
それでもMRJの合計400機超という数字が如何に凄いものか、という点はうかがい知れるのではないでしょうか。
■MRJのアドバンテージ
実用化が疑問視されていたGTFエンジンの採用で勝機を掴み、受注を伸ばすことに成功したMRJ。
新参者のくせにGTFのおかげで大反響の状況を、リージョナルジェット界の両雄が黙って見過ごすはずもなく、
どちらも揃ってPWのGTFエンジン採用に動きます。
先に動いたのはボンバルディアでした。
とはいっても、ボンバルディアはCRJのエンジンをGTFに換装したのではありません。
CRJよりずっと座席数の多い100席超クラスの「Cシリーズ」を新たに開発することにして、
この新型機にGTFを選定しました。
新型機開発ですから、これは年単位で時間がかかります。
「CRJのエンジンをGTFに換装すればすぐじゃん」と思いますよね。
ボンバルディアのCRJと、エンブラエルのE-Jetは、どちらもCF34系エンジンを使用しているのは前述の通り。
性能とウケが良いからと、CF34系からGTFに換装しようとすると、大きな問題があります。
GTFは画期的なエンジンではあるものの、CF34系と比較して一目でハッキリ分かるほど太く、そして重いです。
ボンバルディアのCRJは、元々ビジネスジェット機チャレンジャー600の発展形として開発されました。
ビジネスジェット機はリアエンジン方式が世界の常識。
チャレンジャー600も、そしてここから発展させたCRJも当然リアエンジン方式。
リアエンジン方式の場合、エンジンが多少太くなっても問題ないのですが、
ヒコーキは、主翼で揚力を発生させて機体を持ち上げるため、
主翼を重心にして前後のバランスを保つのがとても大事です。
CF34エンジンで前後のバランスがとれている状態なのに、これをGTFに替えてしまうと、
お尻側が重くなってしまい、尻下がりになって飛べません(XДX)
こうした根本的な問題があるため、CRJはGTFに換装できないのでした。
一方、エンブラエルのE-Jetの方は、主翼下にエンジン吊り下げ方式を採用しています。
これならGTFに換装しても前後バランスが大きく崩れたりはしないのですが、
三菱曰く、重量の大きな変化は空力特性を大幅に変化させてしまうため、
単純にエンジン換装しても利点を十分に活かすことはできないとしていました。
加えて、ヒコーキの脚は非常に重いため「短いほど良い」とされており、元々地上高には余裕がなく、
ここに太いエンジンを取り付けると地上に擦ってしまうという根本的な問題があります。
(某サイト様によれば、CF34の直径135cmに対し、GTFの直径は201cmとありました)
簡潔に言えば、GTFへの換装は、CRJは重いからムリ、E-Jetは太いからムリ。ということになります。
F-1の2秒で終わるタイヤ交換みたいに簡単にはいかないんですね。
「CRJとE-JetにGTFエンジン取り付けはムリ」と書きましたが、実は不可能ではありません。
但し、機体の大幅な設計変更が必要です。
CRJの場合、お尻が極端に重くなって前後バランスが大きく崩れるのが問題になる訳ですが、
これを改善するには、前部胴体をストレッチするか、後部胴体を切り詰めれば良いです。
前部胴体をストレッチすると座席数は増え、当然重くなります。
エンジンがスゴイ重くなるのも相まって、翼面積や機体強度、構造を見直す必要が出るかもしれません。
それではと後部胴体を切り詰めると、その分後部胴体が軽くなって重いエンジンと相殺できるし、
前後バランスがとれるのは良いんですが、
主翼と尾翼の距離が短くなり、飛行中の安定性に問題がでないか確認が必要です。
元々T字尾翼には、その構造上ディープストール(墜落に直結する)に陥りやすいという問題があるのですが、
主翼と尾翼の距離が短くなると、ディープストールにより陥りやすくなります。
対策はいくつかあるのですが、「主翼と尾翼の距離が短くなると、安定性が悪くなる」
という機体の素性の問題ですから、よりシビアな対策が必要です。
E-Jetの方は、エンジンが地上に擦ってしまわないように、ともかく脚を長くしなければなりません。
脚が長くなった分重くなりますし、エンジンもすごく重いですし、機体強度、構造の見直しが必要かもしれません。
「太くて重い」
エンジンにとってはネガでしかないんですが、これがMRJにとっては絶妙に有利に働いた格好ですね。
そして三菱の方は、当然ながらこの太くて重いエンジンを搭載することを前提に機体設計を進め、
GTFエンジンに最適化したヒコーキを2強に先駆けていち早く市場に送り出そうとしました。
「GTFエンジン搭載」は簡単にマネできないからこそ、これが大きなアドバンテージとなりました。
2007年10月9日のATO発表により、MRJは正式にPW製GTFの顧客第1号となりました。
そしてこの時点では、2011年の初飛行を予定していました。
■2強の動き
MRJのATO発表から9ヵ月後の2008年7月、
前述の通りボンバルディア社が、PW製GTFエンジン搭載の「Cシリーズ」(現・エアバスA220)開発を発表。
CRJはリアエンジン方式でしたが、Cシリーズでは主翼吊り下げ方式を採用しています。
新型機ですから、こちらもMRJ同様、GTF専用設計の機体です。
但し、こちらは100~140席クラスですから、70~90席クラスのMRJとは直接競合しません。
エンブラエルの方は少し遅れましたが、2011年11月、
E-Jetの改良型であるE-Jet E2ファミリーを開発すると発表。
2013年1月、E2ファミリーのエンジンとして、正式にPW製GTF選定を発表。
そして同年6月、パリ航空ショーにてローンチしました。
GTF搭載型であるE2には、E175-E2、E190-E2、E195-E2と3タイプがあり、
このうち、E175-E2(80~90席) がMRJと座席数で直接競合します(これ重要)。
MRJの受注数を見れば、この流れは必然だったのでしょう。
ついにというか、とうとうというか、
エンブラエルがMRJと同様GTF搭載の競合機を発表し、追撃してきました。
騒音と燃費でこの2強の従来機が逆立ちしても太刀打ちできない圧倒的な優位性があるからこそ、
実績のないMRJの受注があっと言う間に増えました。
仮にMRJが選定したのが2強と同じCF34系だったとしたら、受注はこんなには増えなかったはずです。
同じ理屈で、実績のあるエンブラエルがGTF採用の競合機を出し、性能も同程度であれば、
MRJの優位性は失われ、受注状況は劇的なまでに変わるのは目に見えています。
実際、ANAがMRJを25機導入(うちオプション10機)すると表明してローンチカスタマーとなったのが2008年3月。
そこから受注400の大台まで積み上げるのに6年かかりました。
ところが、エンブラエルのE2ファミリーの方は、2013年6月のローンチから、
僅か1年余りで400機を超える受注を獲得して、あっという間にMRJに並んでしまいましたΣ(゚Д゚;)
まあエンブラエルの方は、MRJより座席数のバリエーションが幅広いというのも大きいと思うのですが、
ブランド力の差をまざまざと見せつけられた格好です。
(三菱スペースジェットが70~90席に対し、E2は80~140席)
そしてエンブラエルがMRJの競合機を出すと明言したことにより、
MRJが優位性を保てる猶予は、砂時計の砂が落ちるが如く、刻一刻と減り始めることになったのでした。
本格的にMRJの開発を始めた頃の三菱は、
「民間機事業をMRJだけで終わらせるつもりはない」と明言していました。
三菱航空機がMRJで橋頭保を築いて旅客機メーカーとして生き残るには、
先ずはMRJの初飛行、型式証明取得、デリバリーと開発を可能な限り迅速に進め、
「(70~90席クラスで)格段の騒音、燃費性能を有するGTF搭載型を納入できる世界で唯一のメーカー」
でいられる期間を1日でも長く確保することが重要でした。
優位性を保てている間に1機でも多く購入してもらい、世界中で運用してもらい、実績を積み重ね、
これがMRJの更なるセールスに、派生型の充実に、そして次の新たな機体開発へと繋がるはずでした。
ところがその後、MRJがもたついている間に、Cシリーズは2013年9月に初飛行。
PW製GTFの最初の顧客はMRJだったのに、そして当初の計画ではCシリーズより2年早く初飛行するはずだったのに、
最初にGTFで宙を舞ったのはCシリーズであり、ボンバルディアはその後も順調にCシリーズの開発を進め、
2016年7月にデリバリー開始。
べっ、別にCシリーズなんて、座席数が違うんだから競合しないし、悔しくもなんともないんだからねっ!!
問題はエンブラエルの方です。
エンブラエルE2シリーズのうちE190-E2は2018年4月に、そしてE195-E2も2019年9月12日にデリバリー開始。
そしてE175-E2(MRJと競合する方)も、ついに2019年12月に初飛行したのでした。
信頼と実績のエンブラエルがGTF搭載型のE175-E2のデリバリーを果たせば、
MRJの優位性はその瞬間失われてしまうことになります。
同じシリーズの2機種は既にデリバリーまでいっていますから、最後に残ったE175-E2のデリバリーなんて、
エンブラエルにとっては「出来て当然」という感覚だったはずです
(E2の開発は順調そのもので、計画を前倒ししたりした)。
(多分続きます)
MRJがロールアウトした2014年、関連記事を2つアップしました■■
(もう続かない)と書いたのですが、今回はその続編です。
以下、例によってぐだぐだと。
■勝機を掴んだMRJ
一概に「リージョナルジェット」と言っても、B737やA319まで含めると座席数にかなり幅がありますが、
70~90席クラスとして開発が始まったMRJの競合機としては、
ボンバルディア社のCRJ700(70席クラス)と、CRJ900(90席クラス)、
エンブラエル社E-JetシリーズのE170(70席クラス)と、E175(80席クラス)がありました。
どちらも派生型が充実している大ヒット作で、リージョナルジェット市場を拡大させた2強です。
使用エンジンは2社とも信頼と実績のGM社CF34系。
そんな中、三菱はPW社のギヤード・ターボ・ファン(以下GTF)エンジンを選定したのでした。
GTFは低騒音、低燃費の画期的なエンジンで、ビジネスジェットクラスでは既に実用化されていたのですが、
リージョナルジェットクラスとなると、実用化は技術的に非常に困難で、
実はGEも実用化に挑戦したのですが、断念した過去があります。
2007年10月9日、三菱がMRJのATO(正式客先提案)を行った際、併せてPWのGTF選定も発表したのですが、
当時のPWは三大エンジンメーカーの中で最も元気がなく、
しかもこのエンジンは長年開発を続けていたものの未だ未完成であり、
本当に実用化できるのか疑問視されていました。
「実績のないエンジン」ということは、路線に投入してから不具合が出る可能性があります。
これは余談になってしまいますが、ANA国内線使用のB777が搭載しているPW400エンジン(GTFではない)
に不具合が見つかり国交省から運航停止措置が出て、先日やっと運行が再開しましたが、
運行再開までには、ナント16ヵ月も要しており、
15機すべてを改修して路線投入するには、これから更に4ヵ月かかるとのことです。
こうした運航停止までいってしまうトラブルはなにもPWに限った話ではなく、
少し前にはANA B787搭載のRRエンジンでもありました。
"通常のエンジン"でもこんなトラブルがつきものなのに、ましてやGTFは新機軸を盛り込んだエンジンです。
これまでの知見が活かせないどんなトラブルが発生するかも分かりません。
実際GTFはイザ運航が始まるといろいろあって、航空会社から受け取りを拒否られたりなんてこともありました。
しかもGTFの場合、後述しますが機体がすっかり完成してから、
「GTFは開発がムリっぽいから、やっぱり信頼と実績のGM社CF34系にしよう」
と簡単に他のエンジンに変更するのが難しい事情があります。
「GTFを使う」という三菱の決定は、GTFと一蓮托生も同然であり、
関係者一同(いろんな意味で)ビックリだったのでした。
これは三菱にとってかなりのギャンブルではあるのですが、
新参者で実績のない三菱が世界の航空会社から興味を示して貰うには、大きなセールスポイントが不可欠なのです。
そしてGTFには、2強に先駆けて「世界初採用」を目玉にするだけの価値がありました。
三菱は、GTF搭載のMRJは従来機と比較して格段の低騒音、燃費は2割も低減可能であることをアピールしました。
PW社のGTF公式サイトによれば、ファン速度は前世代エンジンと比較して40%遅くなり、
最大75%の騒音低減を実現としています■
(GTFがどれだけ低騒音か比較した動画■)
燃費に関しては、MRJのATOと同じ頃、ボンバルディアはCRJの改良型である"NextGen"を発表したのですが、
「燃費効率5.5%向上」を謳っていました。
「燃費向上を実現した新型機です!!」なんて言っても、普通はこの程度のレベルアップがせいぜいと思うのですが、
MRJではそれが一気に20%ですからね。
公式発表に同席したPW社長は、「GTFはゲームチェンジャーになる」と豪語してました。
結果的にPW社はGTFエンジンを宣伝通りの性能で無事完成させ、
三菱にとってはかなりのギャンブルでしたが、この完成を受け、勝機を掴むことができたのでした。
そして三菱の目論見は大当たり。
低騒音、燃費性能に優れたMRJには続々と注文が相次ぎ、
初飛行もしないうちから、確定223機、オプション180機、購入権4機、
合計407機の受注を得ることに成功したのでした。
この受注ペースは過去に例のないものだったそうですヽ(*´ヮ`)ノ
三菱のATO(2007年10月)当時のボンバルディアとエンブラエルの受注状況について、
過去記事をいろいろ漁ってみたんですが、こんな数字がありました。
ボンバルディア社:CRJ(1991年初飛行)
2008年1月末のCRJ全体の受注残:188機
2008年3月下旬時点:NextGenシリーズ全体で205機の確定注文■
エンブラエル社:E-Jet(2002年初飛行)
2007年12月現在の確定受注は、E‐170:170機、E-175:129機 計:299機(21コマ)■
受注残だったり、確定受注数だったり、
CRJは50~100席超まで幅がある全モデルの数字であるなど、すんなり比較できない数字ではあるのですが、
それでもMRJの合計400機超という数字が如何に凄いものか、という点はうかがい知れるのではないでしょうか。
■MRJのアドバンテージ
実用化が疑問視されていたGTFエンジンの採用で勝機を掴み、受注を伸ばすことに成功したMRJ。
新参者のくせにGTFのおかげで大反響の状況を、リージョナルジェット界の両雄が黙って見過ごすはずもなく、
どちらも揃ってPWのGTFエンジン採用に動きます。
先に動いたのはボンバルディアでした。
とはいっても、ボンバルディアはCRJのエンジンをGTFに換装したのではありません。
CRJよりずっと座席数の多い100席超クラスの「Cシリーズ」を新たに開発することにして、
この新型機にGTFを選定しました。
新型機開発ですから、これは年単位で時間がかかります。
「CRJのエンジンをGTFに換装すればすぐじゃん」と思いますよね。
ボンバルディアのCRJと、エンブラエルのE-Jetは、どちらもCF34系エンジンを使用しているのは前述の通り。
性能とウケが良いからと、CF34系からGTFに換装しようとすると、大きな問題があります。
GTFは画期的なエンジンではあるものの、CF34系と比較して一目でハッキリ分かるほど太く、そして重いです。
ボンバルディアのCRJは、元々ビジネスジェット機チャレンジャー600の発展形として開発されました。
ビジネスジェット機はリアエンジン方式が世界の常識。
チャレンジャー600も、そしてここから発展させたCRJも当然リアエンジン方式。
リアエンジン方式の場合、エンジンが多少太くなっても問題ないのですが、
ヒコーキは、主翼で揚力を発生させて機体を持ち上げるため、
主翼を重心にして前後のバランスを保つのがとても大事です。
CF34エンジンで前後のバランスがとれている状態なのに、これをGTFに替えてしまうと、
お尻側が重くなってしまい、尻下がりになって飛べません(XДX)
こうした根本的な問題があるため、CRJはGTFに換装できないのでした。
一方、エンブラエルのE-Jetの方は、主翼下にエンジン吊り下げ方式を採用しています。
これならGTFに換装しても前後バランスが大きく崩れたりはしないのですが、
三菱曰く、重量の大きな変化は空力特性を大幅に変化させてしまうため、
単純にエンジン換装しても利点を十分に活かすことはできないとしていました。
加えて、ヒコーキの脚は非常に重いため「短いほど良い」とされており、元々地上高には余裕がなく、
ここに太いエンジンを取り付けると地上に擦ってしまうという根本的な問題があります。
(某サイト様によれば、CF34の直径135cmに対し、GTFの直径は201cmとありました)
簡潔に言えば、GTFへの換装は、CRJは重いからムリ、E-Jetは太いからムリ。ということになります。
F-1の2秒で終わるタイヤ交換みたいに簡単にはいかないんですね。
「CRJとE-JetにGTFエンジン取り付けはムリ」と書きましたが、実は不可能ではありません。
但し、機体の大幅な設計変更が必要です。
CRJの場合、お尻が極端に重くなって前後バランスが大きく崩れるのが問題になる訳ですが、
これを改善するには、前部胴体をストレッチするか、後部胴体を切り詰めれば良いです。
前部胴体をストレッチすると座席数は増え、当然重くなります。
エンジンがスゴイ重くなるのも相まって、翼面積や機体強度、構造を見直す必要が出るかもしれません。
それではと後部胴体を切り詰めると、その分後部胴体が軽くなって重いエンジンと相殺できるし、
前後バランスがとれるのは良いんですが、
主翼と尾翼の距離が短くなり、飛行中の安定性に問題がでないか確認が必要です。
元々T字尾翼には、その構造上ディープストール(墜落に直結する)に陥りやすいという問題があるのですが、
主翼と尾翼の距離が短くなると、ディープストールにより陥りやすくなります。
対策はいくつかあるのですが、「主翼と尾翼の距離が短くなると、安定性が悪くなる」
という機体の素性の問題ですから、よりシビアな対策が必要です。
E-Jetの方は、エンジンが地上に擦ってしまわないように、ともかく脚を長くしなければなりません。
脚が長くなった分重くなりますし、エンジンもすごく重いですし、機体強度、構造の見直しが必要かもしれません。
「太くて重い」
エンジンにとってはネガでしかないんですが、これがMRJにとっては絶妙に有利に働いた格好ですね。
そして三菱の方は、当然ながらこの太くて重いエンジンを搭載することを前提に機体設計を進め、
GTFエンジンに最適化したヒコーキを2強に先駆けていち早く市場に送り出そうとしました。
「GTFエンジン搭載」は簡単にマネできないからこそ、これが大きなアドバンテージとなりました。
2007年10月9日のATO発表により、MRJは正式にPW製GTFの顧客第1号となりました。
そしてこの時点では、2011年の初飛行を予定していました。
■2強の動き
MRJのATO発表から9ヵ月後の2008年7月、
前述の通りボンバルディア社が、PW製GTFエンジン搭載の「Cシリーズ」(現・エアバスA220)開発を発表。
CRJはリアエンジン方式でしたが、Cシリーズでは主翼吊り下げ方式を採用しています。
新型機ですから、こちらもMRJ同様、GTF専用設計の機体です。
但し、こちらは100~140席クラスですから、70~90席クラスのMRJとは直接競合しません。
エンブラエルの方は少し遅れましたが、2011年11月、
E-Jetの改良型であるE-Jet E2ファミリーを開発すると発表。
2013年1月、E2ファミリーのエンジンとして、正式にPW製GTF選定を発表。
そして同年6月、パリ航空ショーにてローンチしました。
GTF搭載型であるE2には、E175-E2、E190-E2、E195-E2と3タイプがあり、
このうち、E175-E2(80~90席) がMRJと座席数で直接競合します(これ重要)。
MRJの受注数を見れば、この流れは必然だったのでしょう。
ついにというか、とうとうというか、
エンブラエルがMRJと同様GTF搭載の競合機を発表し、追撃してきました。
騒音と燃費でこの2強の従来機が逆立ちしても太刀打ちできない圧倒的な優位性があるからこそ、
実績のないMRJの受注があっと言う間に増えました。
仮にMRJが選定したのが2強と同じCF34系だったとしたら、受注はこんなには増えなかったはずです。
同じ理屈で、実績のあるエンブラエルがGTF採用の競合機を出し、性能も同程度であれば、
MRJの優位性は失われ、受注状況は劇的なまでに変わるのは目に見えています。
実際、ANAがMRJを25機導入(うちオプション10機)すると表明してローンチカスタマーとなったのが2008年3月。
そこから受注400の大台まで積み上げるのに6年かかりました。
ところが、エンブラエルのE2ファミリーの方は、2013年6月のローンチから、
僅か1年余りで400機を超える受注を獲得して、あっという間にMRJに並んでしまいましたΣ(゚Д゚;)
まあエンブラエルの方は、MRJより座席数のバリエーションが幅広いというのも大きいと思うのですが、
ブランド力の差をまざまざと見せつけられた格好です。
(三菱スペースジェットが70~90席に対し、E2は80~140席)
そしてエンブラエルがMRJの競合機を出すと明言したことにより、
MRJが優位性を保てる猶予は、砂時計の砂が落ちるが如く、刻一刻と減り始めることになったのでした。
本格的にMRJの開発を始めた頃の三菱は、
「民間機事業をMRJだけで終わらせるつもりはない」と明言していました。
三菱航空機がMRJで橋頭保を築いて旅客機メーカーとして生き残るには、
先ずはMRJの初飛行、型式証明取得、デリバリーと開発を可能な限り迅速に進め、
「(70~90席クラスで)格段の騒音、燃費性能を有するGTF搭載型を納入できる世界で唯一のメーカー」
でいられる期間を1日でも長く確保することが重要でした。
優位性を保てている間に1機でも多く購入してもらい、世界中で運用してもらい、実績を積み重ね、
これがMRJの更なるセールスに、派生型の充実に、そして次の新たな機体開発へと繋がるはずでした。
ところがその後、MRJがもたついている間に、Cシリーズは2013年9月に初飛行。
PW製GTFの最初の顧客はMRJだったのに、そして当初の計画ではCシリーズより2年早く初飛行するはずだったのに、
最初にGTFで宙を舞ったのはCシリーズであり、ボンバルディアはその後も順調にCシリーズの開発を進め、
2016年7月にデリバリー開始。
べっ、別にCシリーズなんて、座席数が違うんだから競合しないし、悔しくもなんともないんだからねっ!!
問題はエンブラエルの方です。
エンブラエルE2シリーズのうちE190-E2は2018年4月に、そしてE195-E2も2019年9月12日にデリバリー開始。
そしてE175-E2(MRJと競合する方)も、ついに2019年12月に初飛行したのでした。
信頼と実績のエンブラエルがGTF搭載型のE175-E2のデリバリーを果たせば、
MRJの優位性はその瞬間失われてしまうことになります。
同じシリーズの2機種は既にデリバリーまでいっていますから、最後に残ったE175-E2のデリバリーなんて、
エンブラエルにとっては「出来て当然」という感覚だったはずです
(E2の開発は順調そのもので、計画を前倒ししたりした)。
(多分続きます)
愛知在住時代、ふらりと立ち寄った県営名古屋空港でMRJのテストフライトを一度だけ見る事が出来ました。GTF独特(?)のノイズを響かせながら青空に舞い上がっていくMRJを見て「飛ぶところを見れてラッキーだったなぁ」と思ったのを覚えています。
ただ当時はMRJの開発が順調に進められていた時期だったので、同時に「これから見れる機会は沢山あるだろうし就航すれば乗る事だって出来る」と思い、特に写真に収めたりはせず最初の一回目として肉眼で見るにとどめました。その後開発凍結となりあの日フライトを見れた事がこれほど貴重な経験になるとは思いませんでした。
日本の翼‥ またいつか舞い上がってほしいものです。
by 北宇のピューマ (2022-07-12 15:37)
■北宇のピューマさん
今となっては非常に貴重な体験でしたね。
羨ましい~。
by とり (2022-07-13 06:22)